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[SCG64-03] 房総半島沖のスロースリップイベントに伴う群発地震活動と地球潮汐の関係
キーワード:房総半島スロースリップ, 地球潮汐, 地震トリガリング
1. はじめに房総半島沖では,フィリピン海プレートの沈み込みに伴い,数年間隔でスロースリップイベントが発生し,その北縁域では,これらの活動に同期して,群発地震活動が活発となることが知られている(Hirose et al., 2012).2013年12月末から2014年1月上旬にかけて発生したスロースリップイベントでは,約1週間にわたって地震活動の活発化が観測され,12/24時間の周期で消長を繰り返す特徴が見られた.群発地震活動の発生に地球潮汐が影響を及ぼしている可能性が示唆される.本研究では,2000年以降に捉えられた4回のスロースリップイベント(2002年,2007年,2011年,2014年)に注目し,各イベントに伴う群発地震活動と地球潮汐の関係を調査した.2. データ・解析方法スロースリップイベントに伴う群発地震活動は,Hirose et al.(2012)に従い,深さ28 km以浅のHi-net震源データに基づいて抽出した.地球潮汐による応力変化はTanaka et al.(2012)の方法を用い,海洋荷重の効果も含めて理論的に計算した.応力成分は断層面上のクーロン破壊応力(摩擦係数0.2)に着目した.断層幾何は,2014年の活動の最大地震(Mw 4.9)について得られたF-netモーメントテンソル解を参考に,プレート走向に沿う陸側傾斜の逆断層を仮定した.計算した理論地球潮汐から地震発生時刻の潮汐位相角を読み取り,Schuster(1897)の方法を用いて位相選択性の有無を検定した.この検定で得られるp値は帰無仮説「地震発生は地球潮汐の位相角によらない」を棄却する危険率を表す.3. 解析結果2014年の活動について,活動推移を地球潮汐によるクーロン破壊応力と比較すると,地震の発生数は応力変化に対応して増減を繰り返し,地球潮汐の特定の位相に集中する傾向が見られた.活動の全期間について得られたp値は0.01%で,地震の発生が地球潮汐の応力変化に対して強い位相選択性を示すことが明らかとなった.地震の発生頻度は,地球潮汐による応力変化が断層面上のすべりを最も強く促進する位相角0度付近に集中する傾向を示す.スロースリップによって周辺の応力状態が高まり,地球潮汐の応力変化が加わることで地震が誘発されたと考えることができる.一方,2002年,2007年,2011年の活動については,活動推移と地球潮汐との間に明瞭な対応関係は見られない.各期間について得られたp値は,87%(2002年),16%(2007年),14%(2011年)である.房総半島周辺で観測された地殻変動データからは,これら3回の活動では,2014年よりも変動量が大きく,スロースリップイベントの規模が大きかったと考えられる(Hirose et al., 2013;木村, 2014).2002年,2007年,2011年の活動では,スロースリップの影響が大きく,地震の誘発に地球潮汐による応力変化はほとんど影響を及ぼさなかったと推察される.