[S-CG64_30PO1] スロー地震

[SCG64-P05] 八重山スロースリップの時空間発展シミュレーション

*奥田 亮介¹、平原 和朗¹、宮崎 真一¹、加納 将行¹、大谷 真紀子¹ (1.京都大学理学研究科)

キーワード：スロースリップイベント, 八重山, すべり速度・状態依存則

海溝型地震震源域の下部プレート境界上で発生する、スロースリップイベント(SSE)の活動は、海溝型大地震発生の前に変動する可能性が指摘されており、SSEを引き起こす摩擦特性を知ることは、海溝型大地震の発生を知る上で重要な鍵を握る。我々の最終目標は、SSEに対してデータ同化という手法を用いることで、SSEの原因となる断層面上の摩擦パラメータを推定し、海溝型地震の発生の予測に役立てることにある。本研究では、その第一歩として、まず、スロースリップ時のすべりの時空間発展のシミュレーションモデルの構築を行う。
今回対象とするのは、琉球弧南西部に位置する八重山諸島沖で繰り返し起きているSSEである。このSSEは観測された回数が多く、SSEの発生に影響を与える大きな地震が観測期間中に近傍で起きていないという特徴がある。これがこの八重山SSEを対象とした理由である。
Heki and Kataoka(2008)によると、八重山SSEの特徴は、1)SSEは深さ20-40kmで発生している、2)平均発生間隔は6.3ヶ月、3)その発生間隔の標準偏差は1.2ヶ月、4)12.5cm/年と推定される非常に速い収束速度に対してSSEにより解放されるすべり速度は11.0cm/年、とまとめられる。
これらの特徴を再現するモデル構築を行うが、計算には均質半無限弾性体中の深さ20-40kmのプレート境界上に傾斜断層を設定し、断層面上の摩擦力は速度状態依存構成則に従うものとした。また発展則にはスローネス則（Dietrich,1979）を用い、準動的計算を行なった。本研究ではKato(2003)に従い、摩擦パラメータＡ，Ｂ，Ｌに対して、Ａ－Ｂ＜０（速度弱化）かつ摩擦パラメータによって決まる臨界半径(nucleation radius)に対する断層のアスペリティの半径の比が１より少し小さい領域を作ることにより、SSEを再現した。また、断層面のあるプレート境界面の浅部に1771年に起きた津波（明和津波）を伴う大地震の原因となるアスペリティが存在すると考えられ(Nakamura,2009)、津波石の年代測定から打ち上げられた年代間隔は150-400年（Araoka et al., 2013）で、琉球海溝近傍浅部で数百年間隔で津波地震が発生した可能性がある。その影響も考慮した。
その結果、アスペリティ分布や摩擦パラメータを変えることでSSEの発生周期を調整できることや、浅部のアスペリティが断層面上のすべりにどのような影響を与えるかということが分かった。例えば、80kmのサイズのアスペリティで、Vpl=12.5cm/年、A=50KPa、B=56KPa、L=2.2mmと設定すると、繰り返し間隔約6ヶ月のSSEが発生する。また、SSEのすぐ浅部にプレート収束速度に対して40％のすべり遅れを持つ固着域を置くことで、SSEにより解放されるすべり速度を11.0cm/年に抑えることができるが、これは固着域の位置・サイズおよびすべり遅れ（固着）の程度による。このことは浅部の固着状態すなわち津波地震の予測の上で有効な情報であり今後更なる検討が必要である。さらに、繰り返し間隔をばらつかせるには、複数のアスペリティをおくことや階層的アスペリティ分布を考える必要がある。