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[SCG65-07] 火山構造性地震の活動度の応力変化依存性と地殻流体の効果
キーワード:火山性地震, 地震活動度, 応力変化, 地殻変動, 揮発性成分
1.はじめに火山は静穏期にあってもマグマの蓄積を繰り返し,応力の時間変化が通常の場所に比べて極めて大きい.また,マグマの貫入により揮発性成分が地下に放出される.このような応力と揮発性成分の影響で火山構造性地震が発生するため,火山性地震は火山活動をモニタリングする最も有力な方法の一つとして,多く火山で活動監視に利用されている.しかし,色々な影響で発生する火山性地震を定量的に理解し,地震発生機構の解明に利用した,あるいは定量的な火山活動の評価に利用した例はほとんどない.その理由は,観測データの不足,火山性地震発生原因の判別の不足,地震活動度の定量的モデルの未確立などが挙げられる.火山性地震の地震発生数変化の持つ情報をもっと有効に使い,火山活動を含めた地殻状態の「定量的」な評価に用いるべきであると思い,取り組みを始めた.伊豆大島では多項目の観測網が整備され,地殻変動と地震活動が極めて高精度に観測されている.1~2年周期で発生する間欠的な山体膨張・収縮に同期し,地震活動が時間変化することが観測されている.昨年秋の地震学会及び火山学会でこの地震活動が地殻変動から推定される応力変化をRate and Sate Friction Law (RSF則)に適用すると,一部の期間を除き,定量的に説明できることを示した.今回は,観測値がモデルから外れた理由を考察し,モデルの改良を行った.2.モデルの改良マグマの蓄積を繰り返す火山周辺のような場所で起こる地震は,応力場が時々刻々変化するので,その時点の応力だけでなく,過去の応力履歴も地震の発生に関与している.このような応力履歴の効果を取り入れた地震発生モデルとしてRSF則がある.基本的には,このRSF則で,伊豆大島のカルデラ内地下1~2kmで発生する火山構造性地震の活動度を説明できたが,マグマ蓄積の長期的なトレンドが低下した2011年以降は,モデルから予想される地震活動度と観測値が大きくずれることが明らかになった.このため,応力変化以外の影響を考慮した.アイスランド・Northern Volcanic Rift Zoneでは,深さ10km以深の地殻にダイクが貫入した後,ダイク走向の延長上の浅部で微小地震が発生したことが知られ,これはダイクから放出された二酸化炭素が地殻浅部の断層面における封圧を上げたことが原因と考えられている.また,静穏期にあるイタリア・ブルカノ島のLa Fossa火山では,噴気温度の上昇,つまり揮発性成分の増加と地震活動の上昇に良い相関があることが知られている.このように,貫入したマグマから放出された揮発性成分が,地震活動を高めることがいくつかの火山で知られている.そこで,山体の膨張時に揮発性成分が増加して断層面の封圧が増加する,収縮時には減少するという効果を導入した.また,長期的な山体膨張のトレンドが低下した2011年以降は,深部から新たなマグマの供給が少なく,マグマから地下への揮発性成分の供給は少なくなると考え,山体膨張時でも封圧が増加しないモデルを導入した.このモデルにより観測データとモデルがより良く一致することが判った.3.結論ここで示したことは,1)火山周辺の地震活動の変化は,マグマ蓄積による応力場の変化とマグマから地下に揮発性成分が放出される等の効果が相乗して起こる.2)応力場の変化は,RSF則に基づいたモデルで定量的に評価できる.3)それで説明できない地震活動の変化は,他の火山の例から揮発性成分による効果が最も有力である.という点である.つまり,逆に言えば,応力場の変化で説明できない地震活動の変化から,地下の揮発性成分の量の変化が推定できる可能性があるということである.ここでは伊豆大島の例を示したが,元となるモデルは一般的なものであり,観測網が整備された火山であれば,どの火山でもこの手法は適用できる.これは,地震活動度の変化の応力変化による応答が事前に判っていれば,噴火前に先行物質として上昇してくると考えられている揮発性成分を検知できる可能性があることを示している.これは今後起こる火山噴火の規模や噴火様式の予測に役に立つことが考えられる.上記のことは,地震活動度がこれまでと違った意味で,新たな地下状態のモニタリング手法となり得ることを示している.今後は,応力変化以外の効果が,揮発性成分の変化によるものであるか否かを検証するため,火山ガス等を直接的に観測し,モデルを検証することに努めたい.【謝辞】国土地理院のGNSSデータを利用した.記して謝意を述べる.