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[SCG67-05] 不均質な海洋リソスフェアを伝わる高周波数Po/So波の地域性と原因
はじめに 海洋性リソスフェアを遠距離まで良好に伝わる高周波数のPo/So波は、リソスフェアの厚さや不均質性に敏感であることから、海洋底の深部地下構造の推定への活用が期待できる。前研究(古村・Kennett、2013JpGU大会;Kennett & Furumura, 2013, Gephys. J. Int.)では、北太平洋を伝播するPo/Soの大震幅かつ長いコーダを持つ波群の成因を、海底地震観測データの解析と、地震波伝播の2次元差分法(FDM)シミュレーションにもとづき評価した。そして、Po/Soの成因として、海水層でのP波の多重散乱と、海洋リソスフェア内に発達した横長の短波長不均質構造(ラミナ構造)における高周波数(f>2-5Hz)強い前方散乱・トラップ現象を明らかにした。同様の結論は、近年のShito et al. (2013)による深発地震の解析とFDMシミュレーションからも示された。本研究では、前研究に引き続き海洋リソスフェアの大きな不均質構造(トランスフォーム断層、断裂対、プレート境界など)に伴う、Po/So波の急激な減衰とそのメカニズムを評価し、Po/So波を用いた海洋底構造探査の可能性について議論する。海域地震観測データで見た、Po/So波伝播の地域性東大地震研海半球データセンター(OHP DMC)が公開する北太平洋の海底地震観測データと、IRISデータセンター(IRIS DMC)が提供する陸海観測データから、太平洋全域のPo/So波の伝播特性を調べた。日本に近い北太平洋の東側では、3000km以上にわたってPo/So波が良好に観測されるのに対し、東側(北米大陸側)と南太平洋ではPo/So伝播が弱く、特にSo波の距離減衰が大きい。伝播の地域性は、プレートの年代と良く対応し、年代が若くリソスフェアが薄い海域ほどSoの減衰が大きいことがわかった。たとえば、ハワイーサンフランシスコ間の海底に設置された、Hawaii-2観測点(H2O)では、北米大陸西海岸からの伝播がきわめて弱いのに対して、ハワイ方向からのPo/So波は明瞭であり、しかも伝播速度に+数%の強い速度異方性も検出できた。不均質なリソスフェアを伝わるPo/So波のFDMシミュレーション 東太平洋海嶺から湧き出した海洋プレートは、北米西海岸のトランスフォーム断層を経て、海洋リソスフェアの厚さを増しながら北太平洋に東進しており、リソスフェアの水平不均質性が大きい。また、北太平洋東部には断裂帯が多数存在する。こうした、不均質なリソスフェア構造とSo波の伝播・特性をFDMシミュレーションから評価した。シミュレーションモデルは、前研究(Kennett&Furumura, 2013)と同様に、Sereno(1985)による速度構造モデル(4km厚の海水層、厚さ0.5kmの堆積層(Vs=1.15km/s)、5km厚の海洋地殻)をベースとし、海洋地殻、リソスフェア、アセノスフェアにはvon Karman型の、速度(Vp, Vs)揺らぎを与えた。FDM計算は、海洋研究開発機構の地球シミュレータを用いて行ない、周波数10Hzまでの地震動を評価した。シミュレーションの結果から、So波の伝播はリソスフェアの厚さに非常に敏感であり、年代が古くリソスフェアが厚い(100km)北太平洋の東側のモデルでは、1500km以上にわたって大震幅のSo波の波群が伝わるのに対して、年代が若くリソスフェアの薄い(~30km程度)海域では、高周波数地震動がアセノスフェアに流出し、わずか数百kmの伝播でPo波と同程度にまでSo波が急減する。特に、海嶺で発生する地震ではSo波がリソスフェア内で散乱により成長する前にアセノスフェアへのS波エネルギーの流出が大きく、加えて、薄いリソスフェアの伝播途中でSo波の減衰が大きい。同様のSo波減衰メカニズムは、短波長不均質構造(ラミナ構造)が弱い(揺らぎが小さい)場合や、内部減衰が大きい(Qsが小さい)場合でも確認され、So波を用いた海洋低下の温度やQ構造の推定への有効性が確認できた。いっぽう、断裂帯やトランスフォーム断層をイメージした、海洋プレート厚の急変や、薄い低速度・高減衰(Low-V/Low-Q)層の陥入による影響は小さく、Po/So波伝播に与える影響が小さいことも確認できた。不均質リソスフェア内で強い散乱(拡散)を起こして広がるPo/So波のエネルギー分布に対して、小さなスケール(数~数十km)の小さなスケールの速度・減衰異常は影響を与えないためである。ただし、断裂帯やトランスフォーム断層を斜めに通過する場合や、これに沿って伝わる場合についての影響は、今後3次元モデルを用いたシミュレーションによる評価が必要である。