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[SCG67-20] ホウ素同位体比を用いた沖縄トラフ海底熱水中のホウ素の起源の解明
キーワード:海底熱水, 沖縄トラフ, ホウ素同位体比
沖縄トラフは,フィリピン海プレートがユーラシアプレートの下に沈み込んでいる琉球弧における背弧海盆であり,複数の海底熱水系が見つかっている。海底熱水系の周辺には,海底熱水鉱床が分布していると考えられており,有用な金属も多く含まれている。このような海底熱水鉱床の形成メカニズムや濃集過程を知るためにも,海底熱水循環の経路やその周辺の地質に関する情報,さらにはそれらの温度環境を把握することは大変重要である。沖縄トラフには,ユーラシア大陸から大量の陸源性堆積物が供給されており,海底熱水中の化学組成においても海底堆積物の影響が見られると考えられている。堆積物由来の化学物質としては,メタンやアンモニアの他にホウ素(B)も挙げられる。Bには二つの安定同位体が存在するが,堆積物中には10Bが選択的に取り込まれることや,11Bの方が液相に対して高い溶解性を示すことなどが知られている。本研究では,沖縄トラフに見つかっている複数の海底熱水系から採取した海底熱水中のホウ素同位体比を調べ,海底熱水が反応した海底下における固相のホウ素同位体比及び反応温度に関する情報を導き出すことを目的としている。海底熱水試料は,WHATS採水器を搭載したHyper Dolphinやしんかい6500を用いて,伊平屋北海丘,伊是名海穴(JADEサイト及びHAKUREIサイト),鳩間海丘,第四与那国海丘から採取した。試料は,船上においてメッシュサイズ0.45 μmのメンブレンフィルターを用いてろ過し,HNO3を添加して持ち帰った。測定に先だって,5 mLのコニカルバイアル瓶を用いてホウ素を単離し,50 ppbのホウ素が含まれている溶液0.5~1 mLとした。測定は,Thermo Fisher SCIENTIFIC社製のマルチコレクター誘導結合プラズマ質量分析装置Neptune plusを用いて行い,標準試料NBS SRM 951(11B/10B = 4.0056 ± 0.5)を用いて規格化した。分析精度は±0.3%以内である。沖縄トラフ海底熱水中には,堆積物のない中央海嶺における海底熱水系と比べると,ホウ素濃度が高く,10Bに富んでいた。また,フィールド間においても違いが見られ,第四与那国で最も10Bに富んでおり,伊是名海穴におけるJADE及びHAKREIサイトがこれに続く値を取り,伊平屋北海丘及び鳩間海丘における海底熱水中のホウ素同位体比(δ11B)が最も10Bに乏しかった。海底熱水中のδ11Bと,これまで報告されているメタンの炭素同位体比(δ13C-CH4)とは極めて強い相関を示した。このことから,δ11Bの変動要因は,δ13C-CH4と同様の変動要因である可能性が示唆された。δ13C-CH4の変動要因は,海底堆積物中の有機物が熱分解して生成するメタンと,微生物が生成するメタンの混合比率であると考えられている。このことから,δ11Bも高温で堆積物と反応したか,低温で堆積物と反応したかを表している可能性が示唆された。You et al. (2001) において,水熱実験から示された固相と液相の同位体分別と反応温度との関係を用いて,反応温度を見積もった。固相のδ11Bとしては,沖縄トラフの海底表層で採取された海底堆積物のδ11B(–5.4及び–2.2‰)を用いて行った。その結果,解の得られない海底熱水系があることが示された。そこで,堆積物からのBの溶出についての下限温度と考えられる50°Cから,熱水が海底下において臨界点を達する400°Cまでの間で解を持ちうる固相のδ11Bを見積もると,–20~–10‰といった範囲のδ11Bを持つ固相と反応すれば解を持ちうることが示された。このことから,反応した固相のδ11Bは,沖縄トラフの表層堆積物よりも10Bに富んだ物質であることが明らかとなった。海底堆積物は熱水変質を受けると,ホウ素同位体比が10Bに富むことが示されている。このことから,沖縄トラフ海底熱水中のBの起源は,表層堆積物よりも熱水変質が進んだ海底堆積物である可能性が示された。また,反応温度としては,伊平屋北海丘が最も低く,鳩間海丘,伊是名海穴(JADE及びHAKUREIサイト),第四与那国海丘における海底熱水系がこれに続く。このことから,伊平屋北海丘及び鳩間海丘の涵養域には大量の堆積物があり,これらから低温で溶出したホウ素が熱水中に供給されていると考えられる。一方,第四与那国海丘における海底熱水系の場合は,涵養域のみならず,反応域にまで堆積物の分布が達しているために,高温で堆積物から溶出したホウ素が熱水中に供給されていることが示唆された。