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[SCG67-21] 薩摩硫黄島における浅海域熱水由来の鉄とシリカに富むマウンドの構造解析
キーワード:熱水, 水酸化鉄, 鉄酸化バクテリア, 浅海域
薩摩硫黄島は九州より南へ約38 kmに存在する鬼界カルデラの北西端に位置する火山島であり,流紋岩質の硫黄岳と玄武岩質の稲村岳の2つの後カルデラ火山が存在している.島の周囲の海水は熱水と海水の混合によって褐色または白色を呈している.島内南西部に位置する長浜湾の海底下からは熱水(pH = 5.5, 55-60 ℃, Si: 51.74 ppm, Fe: 191.00 ppm)が湧出しており(四ヶ浦・田崎, 2001),鉄とシリカに富むマウンドが成長している.また,長浜湾内の堆積物は1年間で約33 cmと非常に速い速度で堆積している(Ninomiya and Kiyokawa, 2009, Kiyokawa et al., 2012).本研究において,我々はX線CTスキャン,FE-SEM,薄片による構造観察とEDS,XRF,XRD,そしてDNAの分析によって興味深い知見が見出した.サンプルはマウンドから直接採取した20~30 cmの塊を用いた.当サンプルは肉眼によって表面を覆っている黒色で硬い層と泥質で褐色の柔らかい層に分類した.比較のために遠心分離器によって海水から採取した浮遊物粒子の観察および分析も行った. X線CTスキャン観察から,黒色の層は高密度層,褐色の層は低密度層と定義した.マウンド内部は3~4 cm程度の凸状構造の集合体で形成されており,各低密度層は高密度層の殻によって覆われていた.低密度層内部は直径約1 mmの多量の空洞が複雑に通っている.薄片の鏡下観察から,各層ともにフィラメント状の構造を持ち,その向きは互いに直交していた.また,低密度層から高密度層に向かうに従ってフィラメント状構造に付着する褐色粒子(約 20 μm)の数が増加していた.FE-SEM観察から,高密度層のフィラメント状構造は直径約1~2 μmの粒子が連結した桿菌状の構造をなしていた.一方,低密度層は紐状の構造が多量に観察でき,その表面には直径約0.5 μm未満の粒子が付着していた.この紐状の構造は螺旋状,リボン状,ツイスト状の3タイプに分類した.長浜湾を褐色にしている浮遊物粒子も同様に観察すると,直径0.5 μm未満の微小粒子の凝集物であり,マウンドの主となる形成物である紐状の形態は確認されなかった.XRD,XRFの分析結果は,高密度層(Si: 26.8 %, Fe: 56.0 %)はフェリハイドライトとオパールAで構成されており,また低密度層(Si: 36.5 %, Fe: 43.5 %)はフェリハイドライト,オパールA,石英,クリストバライト,トリディマイトで構成されていた.DNA分析の結果は,ゼータプロテオバクテリア綱に属する鉄酸化菌として知られるMariprofundus ferrooxydansが卓越した生物環境であることを示した. 長浜湾におけるマウンドの形成過程における初期形態としての低密度層が無機的と生物的な反応によって形成される.低密度層形成時にはシリカ鉱物として硫黄岳起源の火山灰が混入している.低密度層内部で観察された紐状の構造は好中性の鉄酸化菌が形成したストークであると考えられる.このような鉄酸化菌は熱水と海水が混合する酸化還元の境界部を好んで生息すると言われている(Chan et al., 2011).外部の高密度層の殻はこれらの生物活動によって形成された可能性がある.高密度の殻の内側では無機的,生物的反応が継続することで低密度層より相対的に高い鉄含有率を持つ高密度層が形成される. 低密度層と高密度層が形成されるプロセスが複数回繰り返されることで内部に熱水の通り道である空洞を持った凸状の集合体が形成される.当地域におけるマウンドの高い成長速度はおそらく鉄酸化菌の活動の影響を大きく受けている.