日本地球惑星科学連合2014年大会

講演情報

口頭発表

セッション記号 S (固体地球科学) » S-CG 固体地球科学複合領域・一般

[S-CG67_2AM2] 海洋底地球科学

2014年5月2日(金) 11:00 〜 12:45 418 (4F)

コンビーナ:*沖野 郷子(東京大学大気海洋研究所)、田所 敬一(名古屋大学地震火山研究センター)、石塚 治(産業技術総合研究所地質情報研究部門)、土岐 知弘(琉球大学理学部)、高橋 成実(海洋研究開発機構地震津波・防災研究プロジェクト)、座長:土岐 知弘(琉球大学理学部)、沖野 郷子(東京大学大気海洋研究所)

12:00 〜 12:15

[SCG67-P07_PG] AUV観測による海底地形データを用いた船観測による海底地形変動推定の空間分解能・誤差評価

ポスター講演3分口頭発表枠

*富士原 敏也1正木 裕香1山本 富士夫1 (1.海洋研究開発機構)

キーワード:マルチナロービーム音響測深, 海底地形変動, 伊平屋北海丘, AUVうらしま, 調査船よこすか

調査船によるマルチナロービーム音響測深の海底地形調査は、あらゆる海底調査の基本情報として行われており、近年では地球科学的に重要な海域には既存データが存在する場合が多い。それゆえに、海底火山噴火、海底地すべりや海溝型巨大地震が起こった後に海底地形調査が行われ、以前の地形との差を調べることにより、海底地形のダイナミックな変動が報告されるようになった[e.g. Fujiwara et al., Science 2011]。これらの研究において、地形変動解値の不確かさを確認しておくことは重要であるが、しかし、それは必ずしもよくわかっていない。なぜなら、空間分解能、測深精度に制限のある海底地形データ同士を比較するためである。船(海面)からの計測では、水深(海底と測深機との距離)が音響測深の空間分解能と精度を決める大きな要因であり、水深に応じて空間分解能と測深精度が低下する。自律型無人探査機(AUV)による海底地形調査では、AUVが海底に近づいて計測することにより、高空間分解能、高測深精度の地形データが得られる。そこで本研究では、船とAUV調査が行われている沖縄トラフ伊平屋北海丘海域の海底地形データを用いて、船観測による海底地形変動推定に関する空間分解能・誤差評価を行った。
AUV「うらしま」による海底地形調査は、2007年5月の「よこすか」YK07-07航海で行われた[山本ほか, 海洋調査技術学会・第21回研究成果発表会 2009]。マルチナロービーム音響測深機はSEABAT 7125である。調査船「よこすか」による調査は、2006年7月18から24日にかけてYK06-09航海で行われ、音響測深機SeaBeam 2112により計測した[Masaki et al., JAMSTEC R&D 2011]。「よこすか」は調査域を各々の一定速度で6回通過して海底地形データを取得した。本研究では各測線をそれぞれ1回の調査データとして用いる。ビーム方角(鉛直線と音波ビームの成す角)は調査域内で40°以内である。
「うらしま」計測による海底地形を見ると、調査域の地形は西側が山地(最浅約870 m)、東側は盆地(最深約1070 m)になっており、水深の平均・中央値は1010 mである。山腹付近に直径約30 m、比高約10-20 mの熱水チムニーマウンド群が確認でき、その形状と詳細な分布が明らかになった。水深が増すと音波ビームが海底面に投影された範囲(フットプリント)が大きくなり、測深値はフットプリント内の地形に影響され平滑化されるため、大きなフットプリントでは海底地形の空間分解能が低下する。水深1000 mでの「よこすか」の計測では、35×35 m〜43×55 mのフットプリントの大きさになる。船の海底地形データでは、フットプリント以下の規模の地形、例えば熱水チムニーマウンド群の存在は捉えることができない。また地形の形状は測深点分布と測深値のばらつきに影響されており、各測線の調査で少しずつ差違がある。「うらしま」データを“真”の地形と見立てて「うらしま」と「よこすか」の測深差を調べると、測深差は平均値の周りに正規分布に近いばらつきを示し、その標準偏差は2.67-3.08 mであった。したがって、「よこすか」データの測深精度は水深の約0.2-0.3 %とみなせる。
AUV海底地形データを用いて船の海底地形データを模造し、よって測深値の確度の場所による違いがない、測深点に位置誤差がない条件で、変動“前後”の比較による海底地形変動の推定試験を行った。船計測のフットプリントを考慮して平滑化した「うらしま」地形を、「よこすか」調査の測深点位置で抽出した。その抽出値に正規分布(σ=3 m)に従う乱数を足し合わせ、変動“前”海底地形データを作成した。次に「うらしま」データの緯度・経度位置を一様に動かして、水平地形変動を模擬する。その「うらしま」データを平滑化し、別の「よこすか」調査の測深点位置で抽出し、正規乱数を足して、変動“後”データを作成した。水平地形変動の推定には、Fujiwara et al. [2011]の方法を用いた。その結果、水平地形変動推定値の精度は、与えた測深値のばらつき(σ)程度であることがわかった。実際の観測に引きなおすと、水平地形変動推定値の精度は、測深精度(水深の約0.2-0.3 %)程度と考えられる。上下地形変動の模擬には、海底地すべりを模したような地形の凸凹を「うらしま」データに加えた。結果、地形変動が約150 m以上の水平規模あるとき、与えた測深値のばらつき以上の高低差あれば、識別できることがわかった。実際の観測に引きなおすと、フットプリントの数倍程度の水平規模、測深精度以上の高低差があれば、上下地形変動が識別できると考えられる。