日本地球惑星科学連合2014年大会

講演情報

ポスター発表

セッション記号 S (固体地球科学) » S-CG 固体地球科学複合領域・一般

[S-CG67_2PO1] 海洋底地球科学

2014年5月2日(金) 16:15 〜 17:30 3階ポスター会場 (3F)

コンビーナ:*沖野 郷子(東京大学大気海洋研究所)、田所 敬一(名古屋大学地震火山研究センター)、石塚 治(産業技術総合研究所地質情報研究部門)、土岐 知弘(琉球大学理学部)、高橋 成実(海洋研究開発機構地震津波・防災研究プロジェクト)

16:15 〜 17:30

[SCG67-P13] 明神火山周辺から採取された酸性岩の多様性 ‐伊豆弧の島弧地殻の不均質‐

*吉田 尊智1岡村 聡1坂本 泉2足立 佳子3池田 保夫4新城 竜一5菅原 誠6 (1.北海道教育大学札幌校、2.東海大学海洋学部、3.新潟大学研究推進機構超域学術院、4.北海道教育大学釧路校、5.琉球大学理学部、6.三菱マテリアルテクノ株式会社)

キーワード:酸性岩, 伊豆・小笠原弧, 明神火山, 明神リフト, 青ヶ島リフト

伊豆・小笠原弧は,フィリピン海プレートの東縁に位置し,本州中部域から南方に約1200㎞,幅400㎞の広がりを持つ東北日本弧に匹敵する大きさを持った島弧である(西村・湯浅 1991).火山フロント(VF)のすぐ西側には,VFほぼ平行に伸び,急崖で囲われた幅20-30㎞の凹地状地形を示す活動的背弧リフト帯(AR)が存在する.VFの大島や三宅島は主に玄武岩を噴出してきたことがよく知られている一方で,伊豆・小笠原弧には,神津島や新島,明神礁に代表され,噴出相の大部分が珪長質岩石から成る火山が存在する(Tamura et al., 2009).近年,伊豆・小笠原弧中部域では,島弧地殻の物理探査が行われ,VF下の地震波構造によるモホ面の深さは20kmで,本島弧の下にはP波速度が6.0-7.0km/s の層が広がっていることが明らかとなった (e.g. Suyehiro et al., 1996) .P波速度が6.0-7.0km/s に対応する岩石種は,神縄断層で本州弧に衝突している丹沢コンプレックスやVFの火山岩中に捕獲岩として含まれるトーナル岩の地震波伝播速度が最も類似することから6.0-7.0km/s 層はトーナル岩質の深成岩から構成されていると推定されている (Suyehiro et al., 1996) .本研究では,大陸地殻形成との関連性が示唆される伊豆弧の酸性火成活動について検討することを目的として,中部伊豆弧のVF火山である明神海山及び活動的背弧リフトの明神リフトから採取された酸性岩の岩石学的考察を行う.本調査地域に産する酸性岩は,横軸にZr,縦軸にZr/Y比をとった図によって大きく3つのグループに大別される.本研究では,Zr/Y比の低いtype 1,Zr/Y比が中程度のtype 2,Zr/Y比の高いtype 3に分類した.同一の採取地点から種々の組み合わせで複数種の酸性岩が産することがあり複雑なマグマ発生条件が示唆される.type 1は主としてVFに産出し,一部ARのVF寄りの2地点においても採取された.type 2はVFからARにかけて広く産出しtype 3はARにのみ産出する.
type 1は,低いZr/Y比,高Ba含有量で特徴づけられ,Sr, Nd同位体比においてVF玄武岩と同様の特徴を示すが,Hf同位体比において同地域のVF玄武岩と異なり,むしろVF火成岩中の苦鉄質岩ゼノリスと同様の同位体比を持つ.type 2は,東経139度47分を境に性質が変化する.VF及びVF寄りのARから産するtype 2は,中程度のZr/Y比,低Ba含有量で特徴づけられ,四国海盆拡大後の火成岩と異なった同位体比特徴を持つ.一方,より背弧域のtype 2は,軽希土類に富み,VFのtype 2に比べ低いSr同位体比,高いNd, Hf同位体比を持つ.type 3は,高いZr/Y比,低いBa含有量で特徴づけられ,Sr, Nd同位体比においてAR玄武岩と同様の特徴を示すが,Hf同位体比において同地域のVF玄武岩と性質が異なる.さらに四国海盆拡大後の火成岩,AR玄武岩及び前弧域のODPボーリングコアの火成岩 (Straub et al., 2010) とも同位体比特徴を異にする.
3タイプの酸性岩は,Na2O vs ASIの図において玄武岩質起源物質の部分溶融実験のデータ (e.g. Sission et al., 2005) との整合性が高く,玄武岩質の下部地殻の溶融物であることが示唆される.しかし,本研究の流紋岩と同じ地点から採取された玄武岩とでは全てHf同位体比組成が異なり,起源物質として考えることができない.そのため,現伊豆弧で活動する全てのタイプの酸性岩は,過去の活動によって形成された島弧地殻物質の再溶融によって形成されていると考えられる.type 1は,VF火成岩中に含まれる苦鉄質岩ゼノリスと同様のSr, Nd, Hf同位体比を示すことから15Ma以降続くVF玄武岩の活動 (Bryant et al., 2003) によって形成された古い下部地殻の部分溶融によってもたらされたと考えられる.type 2は漸新世のタ-ビダイトと性質が類似するが,type 2のうち背弧域のARに産するものは,Hf同位体比が明瞭に高く,Hf同位体比が高いことで特徴づけられるフィリピン海プレートの影響を受けていると考えられる.type 3と同様の同位体比特徴を持つ地球化学的データは,前弧域のODPのボーリングコアの研究においてこれまで報告されておらず,背弧域特有の起源物質の存在を示唆する.type 3の起源物質の検討には,今年の3月から始まるIODPのプロジェクトによる伊豆弧背弧域における掘削での地球化学的データの蓄積が期待される.本研究では,同一地点において多様な酸性岩が再溶融によって産出することに加え,一部フィリピン海プレートの影響を受けたものが存在することが明らかになった.そのため現伊豆弧下の島弧地殻は,フィリピン海プレートを基盤として約50Ma続く島弧火成活動に起因するマグマのアンダープレーティングによってパッチ状に地殻物質の不均質が存在する可能性が高い.