日本地球惑星科学連合2014年大会

講演情報

ポスター発表

セッション記号 S (固体地球科学) » S-GC 固体地球化学

[S-GC56_30PO1] 固体地球化学・惑星化学

2014年4月30日(水) 18:15 〜 19:30 3階ポスター会場 (3F)

コンビーナ:*下田 玄(産業技術総合研究所地質調査総合センター)、鈴木 勝彦(独立行政法人海洋研究開発機構・地球内部ダイナミクス領域)、山下 勝行(岡山大学大学院自然科学研究科)

18:15 〜 19:30

[SGC56-P01] MORB気泡中のヘリウム・ハロゲン組成

*鹿児島 渉悟1高畑 直人1佐野 有司1 (1.東京大学大気海洋研究所)

キーワード:中央海嶺玄武岩, ヘリウム, ハロゲン, 放出量, 物質循環

ハロゲン元素の海底火山からの脱ガス様式はよく分かっていない。我々は海嶺からのハロゲンの放出量を制約するためにMORBの気泡に含まれるヘリウム・ハロゲン組成を決定した。世界中の8か所(東太平洋海膨の13oN-17oS; 大西洋中央海嶺の15oN-37oN; 中央インド洋海嶺の24-25oS)で採取された試料をNaOHまたはNH3溶液中に投入し、液体窒素の温度で溶液を凍結させた状態で破砕して気泡中の揮発性物質を抽出した。そしてヘリウムの同位体組成を希ガス用質量分析計VG-5400で、フッ素・塩素の含有量をイオンクロマトグラフィーICS2100で測定した。さらにガラス部分のフッ素・塩素濃度を二次イオン質量分析計NanoSIMSで測定した。
気泡中の3He濃度は(4.5±2.1)×10-15 mol/g, F/3He比とCl/3He比は(1.4±0.5)×106, (2.9±0.6)×107と得られた。そしてこれらの比と既知の3He放出量530 mol/yから、フッ素・塩素の放出量として(7.1±2.8)×108 mol/y, (1.5±0.4)×1010 mol/yが得られた。これらは海嶺からの放出量の下限値として考えられる。なぜならばフッ素・塩素のガラス中含有量は気泡中含有量に対してそれぞれ7000倍以上, 100倍以上であり、海洋地殻中のそれらの元素の一部が海洋中へと溶け出すだけで放出量が大きく上がってしまうからである。気泡中とガラス中のF/Cl比の差はフッ素・塩素の気泡―ガラス間における分配係数の違いを反映しており、これらの元素の海嶺における脱ガス様式には大きな違いがあると考えられる。またMORBに対して希ガス化法(中性子を照射して試料中のハロゲンを希ガスへと変換し、それらの希ガスの同位体分析を行うことで元のハロゲン組成を決定する手法)を行った研究 [1] の結果から、気泡中のBr/Cl比とI/Cl比は(1.8±0.1)×10-3, (5.4±0.1)×10-5と計算された。これらの値は同研究で報告されている固体ガラス中の元素の存在比とほぼ同じであり、このことは海底の玄武岩質マグマにおける塩素・臭素・ヨウ素の気泡―ガラス間の分配係数が似ていることを示している。Br/Cl比、I/Cl比および本研究で得られた塩素の放出量を基に、臭素・ヨウ素の海嶺からの放出量は(2.7±0.8)×107 mol/y, (8.3±2.4)×105 mol/yと計算された。これらは3Heの放出量に対して間接的に規格化することで得られた初めての臭素・ヨウ素の海嶺における放出量の推定値であり、塩素と同じ理由で下限値であると考えられる。本研究の手法と希ガス化法とを組み合わせて同一試料を分析することで、ハロゲン元素の固体地球内部からの脱ガス様式・物質循環について新たな展望が得られるだろう。

参考文献: [1] Kendrick et al. (2012) GCA 81, 82-93.