日本地球惑星科学連合2014年大会

講演情報

ポスター発表

セッション記号 S (固体地球科学) » S-GC 固体地球化学

[S-GC56_30PO1] 固体地球化学・惑星化学

2014年4月30日(水) 18:15 〜 19:30 3階ポスター会場 (3F)

コンビーナ:*下田 玄(産業技術総合研究所地質調査総合センター)、鈴木 勝彦(独立行政法人海洋研究開発機構・地球内部ダイナミクス領域)、山下 勝行(岡山大学大学院自然科学研究科)

18:15 〜 19:30

[SGC56-P02] 生駒山地における白亜紀深成複合岩体のマグマプロセス

*小泉 奈緒子1奥平 敬元1小川 大介1 (1.大阪市立大学 院理)

キーワード:領家帯, マグマプロセス, 結晶集積

生駒はんれい岩類は,大阪府と奈良県の県境に位置する生駒山地に分布する白亜紀の深成岩体で,本邦における最大規模の苦鉄質岩体である.生駒はんれい岩類には,野外における観察から周囲に分布する中間質岩類と成因的に密接な関係が認められる(生駒山地領家帯研究グループ,1986など).このため,本研究ではこれらを生駒はんれい複合岩体として,岩石学的記載,全岩化学組成分析,鉱物化学組成分析を行い,そのマグマプロセスについて考察した.
 生駒はんれい複合岩体はの岩相は,(1)斜長石キュームレイト(Pl cumulate),(2)普通角閃石?斜長石キュームレイト(Hbl-Pl cumulate),(3)普通角閃石はんれいノーライト(Hbl gabbronorite)の3タイプに分けられる.Pl cumulateは中粒で,斜長石を集積鉱物として含み,それらの粒間には斜長石の他に角閃石や輝石などが見られる.Hbl-Pl cumulateは細粒で自形から半自形の斜長石および角閃石を集積鉱物とする.また,Hbl gabbronoriteは細流から中粒で,Hbl-Pl cumulateから遷移的に変化する.
 生駒はんれい複合岩体における全岩化学組成は,SiO2含有量44-63wt.%の組成範囲を示す.しかし,SiO2含有量50wt.%前後を境として,SiO2<50wt.%においては,他の主要および微量成分に対するSiO2含有量の変化が小さいが,SiO2>50wt.%では,SiO2含有量は各成分と共に大きく変化する.Pl cumulateおよびHbl-Pl cumulateは主にSiO2<50wt.%の領域に含まれ,Hbl gabbronoriteは主にSiO2>50wt.%の領域に含まれる.
 Pl cumulate に含まれる自形性の良い斜長石は,An91-83付近に組成ピークを持ち,この斜長石の組成は,全岩化学組成におけるPl cumulateのトレンドの端成分にほぼ一致する.また,斜長石のモード組成と全岩組成におけるCaO含有量には相関が見られることから,このことから,Pl cumulateの組成トレンド形成においては斜長石の集積過程による寄与が示唆される.モデル計算を行った結果,SiO2含有量約50wt.%の組成を出発物質として,最大70%程度の斜長石の集積によって全岩組成トレンドの再現が可能であることが明らかになった.Pl cumulateは岩体内でも標高の高い場所に分布しており,全岩組成におけるCaO含有量と標高に弱いながらも正の相関が見られることから,マグマだまりにおける斜長石の集積場所を反映していると考えられる.一方で,Hbl-Pl cumulateおよびHbl gabbronoriteに含まれる斜長石は,バイモーダルな組成を示し,これらはAn70-75付近に最大のピークを,そしてAn85-90付近に小さなピークを持つ.このことから,生駒はんれい複合岩体における斜長石の晶出には少なくとも2つの段階があったこと,そして, Anに富む斜長石が集積したPl cumulateの形成後にHbl-Pl cumulateおよびHbl gabbronoriteが形成されたことが示唆される.しかし,Hbl-Pl cumulateについては,角閃石と斜長石の集積作用のみで全岩組成トレンドを再現することは困難であり,その形成過程については更なる検討が必要である.
 82Maにおける生駒はんれい複合岩体のSr同位体初生値とSiO2含有量の間には,弱い相関が認められる.このことから,生駒はんれい複合岩体の形成時に苦鉄質マグマと,より珪長質でSr同位体初生値の高い物質との混合があったことが示唆される.生駒はんれい複合岩体周辺には,同時代に活動した花崗岩類が分布しており,これらの岩体の全岩化学組成は,生駒はんれい複合岩体のSiO2>50wt.%における組成トレンドの珪長質側の延長線上に位置する.しかし,モデル計算の結果,これらの岩体のSr同位体初生値は,混合の珪長質端成分として考えるには低すぎることがわかった.従って,生駒はんれい復号岩体は,同時代の花崗岩類よりも高いSr同位体初生値を持つ地殻物質と混合していたと考えられる.

【文献】生駒山地領家帯研究グループ(1986) 地球科学, 40, 102?114.