日本地球惑星科学連合2014年大会

講演情報

口頭発表

セッション記号 S (固体地球科学) » S-GC 固体地球化学

[S-GC56_30PM2] 固体地球化学・惑星化学

2014年4月30日(水) 16:15 〜 17:45 415 (4F)

コンビーナ:*下田 玄(産業技術総合研究所地質調査総合センター)、鈴木 勝彦(独立行政法人海洋研究開発機構・地球内部ダイナミクス領域)、山下 勝行(岡山大学大学院自然科学研究科)、座長:山下 勝行(岡山大学大学院自然科学研究科)、下田 玄(産業技術総合研究所地質調査総合センター)

17:30 〜 17:45

[SGC56-P03_PG] 阿蘇火山火砕流堆積物中のアパタイトの揮発性元素組成

ポスター講演3分口頭発表枠

*道久 真理絵1小木曽 哲1 (1.京都大学人間・環境学研究科)

キーワード:アパタイト, 水, 揮発性元素, 初期地球, マグマ

本研究では,メルトインクルージョンの分析によりメルトの含水量が推定されている阿蘇火山火砕流堆積物中のアパタイトを分析し,アパタイトのOH量とメルトの含水量との関係性について検討した.
地球の水は,表層や内部において生命活動やマントルダイナミクスなどに大きな影響を及ぼしている.そのような地球の水の起源の解明のためには、初期地球内部の水の量を明らかにすることが重要である.初期地球内部の水の量について知る手がかりとして,地球最古の鉱物である西オーストラリア・ジャックヒルズ変礫岩中のジルコンが包有する初生的なアパタイトがある.アパタイトはその結晶中に揮発性元素(F,Cl,OH)を持つため,ジャックヒルズのアパタイト包有物から初期地球内部の水についての情報が得られることが期待される.しかし,アパタイトのOH量からメルトの含水量を推定する際に必要となるアパタイト-メルト間のOHの分配についての知識は不十分であるため,これを明らかにすることを本研究の目的とする.
 本研究の試料である阿蘇火山火砕流堆積物は,マフィック試料とシリシック試料があり,長石中のメルトインクルージョン組成の分析によって含水量はマフィックメルト>シリシックメルトであると推定されている.新たに試料からアパタイトを取り出してEPMAで分析した結果,1試料中のアパタイトのCl濃度はほぼ一定である一方,F濃度に幅があった.これはFとOHとが交換関係にあることを示している.また、アパタイトのOH量とメルトの含水量は逆相関を示した.
 この原因として,メルト中のCaがFと化合物をつくり.アパタイトへのFの分配を妨げたということが考えられる(Mathez and Webster, 2005).メルトのCa濃度はマフィック試料で約3.34wt%,シリシック試料で約1.44wt%であり,マフィックメルトの方がCa濃度が高かったため,Fのアパタイトへの分配が強く阻害され,代わりにOHがアパタイトへ分配された可能性がある.
また,メルト組成を推定するために分析したメルトインクルージョンの含水量は,実際はメルト組成を反映していなかったということも考えられる.メルトインクルージョン中には気泡が多く存在し,気泡が多い試料ほど含水量は低いという傾向がみられる.すなわち,メルトインクルージョン中の水は気泡として抜けてしまっており,メルト組成よりも含水量を低く見積もっている可能性がある.また、斜長石の組成幅やメルト組成,温度から計算されたメルトの含水量はマフィック試料で4.1-7.7wt%,シリシック試料で4.1-5.7wt%で,マフィックメルトの方が含水量が多かったと見積もられている(Kaneko et al., 2007).よって,実際はアパタイトのOH量とメルトの含水量は正の相関関係である可能性がある.
1試料中のF濃度とOH濃度に幅がある原因については,脱ガスに伴うF-OHの交換反応や結晶分化作用の進行によるメルト組成の変化を反映していると考えられる.
 本研究の結果として,阿蘇火山火砕流堆積物中のアパタイトのOH量とメルトの含水量は逆相関を示し,1試料中のF濃度とOH濃度に幅があるということがわかった.今後メルトの含水量を推定したデータの信頼性や,メルト中のCaやその他の元素がアパタイト-メルト間の揮発性元素分配に与える影響などを検討していく必要がある.