日本地球惑星科学連合2014年大会

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セッション記号 S (固体地球科学) » S-IT 地球内部科学・地球惑星テクトニクス

[S-IT38_30PO1] 地球構成物質のレオロジーと物質移動

2014年4月30日(水) 18:15 〜 19:30 3階ポスター会場 (3F)

コンビーナ:*大内 智博(愛媛大学地球深部ダイナミクス研究センター)、桑野 修(独立行政法人海洋研究開発機構)、清水 以知子(東京大学大学院理学系研究科地球惑星科学専攻)

18:15 〜 19:30

[SIT38-P02] タルクの摩擦挙動における間隙圧変化の影響

*上原 真一1岡崎 啓史2清水 以知子3 (1.東邦大学理学部、2.Department of Geological Science, Brown University、3.東京大学理学部)

キーワード:タルク, 摩擦実験, 間隙圧, 低周波地震

いくつかの沈み込み帯で発見されている低周波地震の発生メカニズムについて、これまで様々なモデルが提案されてきた。そのいくつかは、プレート境界における高間隙圧の存在の重要性について指摘している。それに加えて、プレート境界に分布する含水鉱物も重要な要素として注目されている。特に蛇紋岩については、岩石学的にも地震波の観測からも、沈み込み帯のプレート境界上盤のマントルウェッジ内に存在すると考えられている。しかしながら、タルクもプレート境界断層のレオロジーを考える上で重要な物質である可能性が高い。タルクは、沈み込むスラブ起源の流体と蛇紋岩の反応によって生成されることが知られている。また、タルクは天然の断層帯で存在が確認されている物質のうち最も強度の弱いもののひとつであり、少量でも断層のレオロジーに大きな影響を与える可能性が考えられる。しかしながら、タルクの摩擦特性が間隙圧にどのように影響を受けるかについて、定量的な検討はあまりなされていないのが現状である。本研究では、封圧Pc, 間隙圧Ppを制御して、タルクのプレカット試料による摩擦実験を実施した。実験には中国産のタルクについて、直径20 mmの円柱形の試料を軸に対して30oに切断したプレカット試料を用いた。プレカット面(摩擦滑り面)は#400のカーボランダムで研磨した。試料には、間隙水が摩擦面に行きわたるように直径3 mmの穴を設けた。この試料を封圧下で、一定の軸変位速度(1 μm/s)で軸載荷することでせん断試験を行った。実験はいくつかの封圧Pc(最大110 MPa)・間隙圧Pp(最大100 MPa)条件で行った。せん断実験の途中で、PcまたはPpをステップ状に変化させてそのときのせん断応力の変化の様子を調べた。
 有効法線応力σ(= σt - Pp, ここでσt は全法線応力)をステップ状に変化させたところ、 摩擦係数は遷移的な変化を経て定常状態に達する様子が観察された。σが減少する場合、摩擦係数は一時的に増加したのち減少して定常状態に戻るが、σの1桁分の変化に対するその摩擦係数の遷移的な変化量は0.2から0.28の範囲の値をとった。これは先行研究による石英やウェスタリー花崗岩の場合の結果に近い結果である(Linker and Dieterich, J. Geophys. Res., 1992; Hong and Marone, Geochem. Geophys. Geosyst., 2005)。一方σが増加する場合は(このとき摩擦係数は一時的に減少)、この値は小さくなった(0.12以下、場合によっては負の値を示すこともあった)。これは、この場合のせん断応力の遷移的な変化量が石英や花崗岩によるものに比べて小さいことを意味する。この現象は、摩擦面の起伏の変形がより延性的に変形することに関係しているのかもしれない。
 ここで示された摩擦特性は、スロースリップのメカニズムに関係する可能性がある。例えば間隙圧の増加による有効法線応力の減少によって断層滑りが引き起こされた場合、滑り面上で部分的に非排水状態となり膨張硬化(ダイラタンシーハードニング)が起きることによって有効法線応力が増加する可能性がある。このとき、断層面がタルクに覆われている場合、通常の物質で覆われている場合に比べて、有効法線応力の増加に対する摩擦係数の一時的な減少量が小さくなる(摩擦係数があまり減少しない)ことが予想される。したがって、滑りに対する摩擦抵抗がより有効に働き、通常の地震性滑りよりも滑り速度が小さくなることが期待される。
 本研究は、科研費補助金(新学術領域)の援助を受けて実施した。ここにその感謝の意を表する。