日本地球惑星科学連合2014年大会

講演情報

口頭発表

セッション記号 S (固体地球科学) » S-IT 地球内部科学・地球惑星テクトニクス

[S-IT40_1PM1] 地殻流体:その分布と変動現象への役割

2014年5月1日(木) 14:15 〜 16:00 416 (4F)

コンビーナ:*中村 美千彦(東北大学大学院理学研究科地学専攻地球惑星物質科学講座)、佐久間 博(東京工業大学大学院理工学研究科地球惑星科学専攻)、市來 雅啓(東北大学大学院理学研究科)、高橋 努(独立行政法人海洋研究開発機構 地球内部ダイナミクス領域)、座長:横山 哲也(東京工業大学大学院理工学研究科地球惑星科学専攻)、堀口 桂香(独立行政法人 産業技術総合研究所 地質情報研究部門 深部流体研究グループ)

15:45 〜 16:00

[SIT40-17] 沈み込み帯深部の水循環とマントル対流との相互作用

*中久喜 伴益1金子 岳郎1中尾 篤史2岩森 光3 (1.広島大学大学院理学研究科地球惑星システム学専攻、2.東京工業大学大学院理工学研究科地球惑星科学専攻、3.海洋研究開発機構・地球内部物質循環研究分野)

キーワード:沈み込み帯, 水輸送, 遷移層, スラブ, 含水プルーム, マントル対流

水がマントル岩石の融点を下げ、部分融解を作り出すことは、島弧の火成活動に不可欠であると考えられている。島弧下のマントルの流動と水輸送を結合した数値モデリングにより、スラブが脱水してから部分融解の生成に至るまでの過程を詳しく理解できるようになった (Iwamori, 1998; 2007)。一方、背弧や大陸プレート内部においても、火山活動が見られることや、リソスフェアが大きく変形し、表層に厚い地震波高速度域が見られないことから、沈み込んだスラブからの水が影響を与えている可能性があると考えられる。それでは、沈み込み帯深部に沈み込んだスラブから水がどのように発生し、また、水は沈み込み帯のダイナミクスにどのような影響を与えるのであろうか。これらの動力学的過程を理解するため、沈み込み帯深部までの水輸送とプレートの沈み込みを動的結合したマントル対流の数値モデルを構築し、シミュレーションを行った。基礎となるモデルとして、これまで著者らが開発してきた自発的沈み込みのモデル (Tagawa et al. 2007; Nakakuki, et al. 2010) を使用した。このモデルに、含水鉱物の相図 (Iwamori, 1998; 2007)と水輸送を組み込む。岩石の最大含水量は相図から決まる水和鉱物・結晶内の水だけでなく、結晶粒界の水も考慮した。水がマントル対流に与える影響として、含水によって岩石の密度や粘性が低下する効果(Karato and Jung 2003)を考える。最大含水率を超えると岩石は脱水し、その水は浸透流により上方に運ばれると考えられる。その速度は、マントル対流よりも大幅に高速であると考えられるので、脱水した水は瞬間的に上方へ動くと仮定して、その移動をモデルに取り入れた。水の拡散はマントル対流の時空間スケールよりも無視できるほど小さいので、水の輸送は拡散項のない移流方程式で表されることになる。拡散のない式をEuler的な方法で解くのは難しいため、マントル対流に伴って移動する水の移流方程式の解法にMarker-And-Cell (MAC)法を適用した。脱水を計算する際、メッシュと粒子の間で水含有率を交換する必要がある。このとき、脱水した水をメッシュ内の粒子に分配する扱いを工夫し、水が玄武岩と橄欖岩との間で拡散するのを極力抑えた。岩森らの研究や地震学的な研究(Kawakatsu and Watada, 2007)によると、海洋地殻から脱水した水は、スラブ上面の橄欖岩に取り込まれserpentineあるいはchloriteとして、150km程度の深さまで輸送される。我々のモデルでは、この含水層が安定に形成されるためには、沈み込む海洋地殻の含水量は2%程度以上でなければならなかった。また、強度については、プレート境界の逆断層と同程度かそれよりも小さくなければならなかった。これらはHoriuchi (2013)の結果と調和的である。この相がchoke pointで分解した後、水は高温のマントルへ脱水し、高温のnominally anhydrous minerals (NAMs)により深部へ輸送される。このとき、NAMsが持つことの出来る水は最大で0.2 wt. %程度と推定される。これより大きい場合(0.4 wt. %)には、深部へ輸送される水が多くなりすぎて島弧下のマントルを水で満たすことは出来なくなってしまった。岩石の相図から予想されるように、NAMsは脱水することなく、マントル遷移層に沈み込む。Richards and Iwamori (2010)は水平なスタグナントスラブが形成された際、含水層がレイリー・テイラー不安定を起こし、プルームとして上昇する可能性を示した。これに対し本研究では、そのような不安定の発生は見られなかった。一方、下部マントルに沈み込むスラブは、下部マントルの含水力に依存して脱水する。下部マントルの含水力が410km以浅のNAMsマントルより小さい場合には脱水を起こす。この場合、スラブ上面の含水層は660km相境界面を境に大きく水平方向へ広がることが分かった。これは、上方への脱水とマントル対流に伴う斜め下降を繰り返すためである。脱水した水によって、水に飽和した薄い層が660km相境界直上に形成された。この層は軽いので、不安定となり、含水プルームとして上昇し始める。410kmの相境界より上部では、含水力が遷移層よりも小さい。このため、含水プルームは410km境界に達すると水を放出する。放出された水は、島弧下の水輸送と同様、浸透流として上昇する。その浸透流は、含水プルームの大きさによっては上盤プレートにまで達することも見られた。このような機構により、背弧側リソスフェア下のウェッジマントルには大量の水が運ばれ、島弧から500から1000km程度の範囲が1億年程度の時間で水に満たされた。含水プルームと背弧側プレートの相互作用は、リソスフェア下部を浸食するため、時間が経過しても背弧リソスフェアを薄いまま保つことが出来る。この作用により、含水プルームは背弧に部分融解を引き起こすだけでなく、島弧下のアセノスフェアを高温に保つ機構としても働くことが分かった。