16:45 〜 17:00
[SIT41-18] 「高温沈み込み帯」のマグマ進化過程
キーワード:高温沈み込み帯, 初期島弧火成活動, 無人岩, オマーンオフィオライト
東ヨーロッパから中央アジアにかけて断続的に分布するテーティスオフィオライト帯は、いずれも基底部に沈み込んだスラブ起源と考えられている変成岩を伴い、マントル―斑レイ岩―岩脈群から溶岩層というオフィオライト層序を保存していることが知られている。溶岩類には共通して無人岩が含まれることや、層序が伊豆小笠原マリアナ弧と類似することからオフィオライトの起源として前弧域が提案されている[e.g. Dilek and Furnes, 2009]。しかし、中東のオマーンオフィオライトでは、100 Ma頃に高速拡大海嶺から沈み込み帯への転換によって、無人岩を含む島弧火成活動(V2 sequence)が起こった[Ishikawa et al., 2002, Geology]。放散虫化石年代から、この島弧火成活動は2-300万年で終息し[Kurihara and Hara, 2012, JpGU]、その後1000万年以上かかってアラビア半島に衝上した。本講演では、オマーンの無人岩の産状、岩石学的・地球化学的特徴から、短命に終わったオマーンの沈み込み帯モデルを考察する。V2 sequenceが連続的に観察できるWadi Bidi地域では、厚さ1110 mの溶岩層が南北延長約2 kmに露出する遠洋性堆積物層によって下位(LV2)と上位(UV2)に区分される[Kusano et al., 2013, Special Publication 392, Geological Society of London]。層厚970 mのLV2は普遍的に斜長石、斜方輝石、単斜輝石とかんらん石を含み、斑晶鉱物量は3 vol%以下の島弧ソレアイトである。層厚140 mのUV2の大部分は厚さ1 m以下のシート状溶岩からなるが、最上部には水中噴火によって形成した降下火砕物が産する。UV2溶岩はかんらん石、斜方輝石と単斜輝石斑晶を5-10 vol%含む無人岩である。これらの溶岩は海嶺期から島弧火成活動期を通じて次第に枯渇していく特徴を示す。一方、LIL元素には富む傾向を示す。LV2溶岩は176Hf/177Hfと143Nd/144Ndが海嶺期の溶岩と類似した組成範囲を示す。両者はおおむねHf-Nd Mantle arrey上にプロットされることから、スラブ由来メルトがLV2溶岩に関与した影響はわずかであると考えられる。一方、UV2溶岩はLV2よりも低いNd同位体値を示す。UV2のHf-Nd同位体組成変化は、海嶺期の溶岩0.995に対して遠洋性堆積物0.005の混合比で説明可能である。本地域で観察される初期島弧火成活動は、島弧ソレアイト質なもの(LV2)から無人岩(UV2)へとマグマ組成が変化する。次第に溶岩組成が枯渇する原因として、沈み込んだプレートが若く浮揚性であったために、上盤のマントルウェッジが薄く、背弧側からのアセノスフェア対流が発達しなかったことが考えられる。オフィオライトに底づけされた沈み込んだスラブの一部であるメタモルフィックソールに記録された最高変成条件は~800℃、1 GPaである[Searle and Cox, 2002]ことから、無人岩マグマ形成に寄与した遠洋性堆積物メルトは初期のスラブ融解によってもたらされたと考えられる。