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★ [SMP06-03] 高温高圧下における緑泥石の脱水分解反応境界とその状態方程式
キーワード:緑泥石, 含水相, 沈み込むスラブ, 脱水分解反応, 状態方程式, 放射光X線その場観察
1.はじめに スラブ中の様々な含水鉱物は沈み込みに伴い地球内部へと運搬され、各々の温度圧力条件で分解反応を生じる。含水鉱物が脱水分解反応することで発生する流体は島弧マグマの成因に影響し、また生成される含水相は水をより地球内部へと運搬すると考えられる。 含水ペリドタイト中の主要な含水鉱物の一つとして、蛇紋石(serpentine; Mg6Si4O10(OH)8)が挙げられる。この鉱物はマントル中の主要な元素で構成されており、これまで数多くの研究が報告されている。一方実際のマントル中にはAl2O3成分がおよそ4 wt%含まれており、蛇紋石の化学組成にAlを加えた緑泥石(chlorite; (Mg,Al)6(Si,Al)4O10(OH)8)の存在も重要であると考えられる。しかしながら、これまでの緑泥石単体の脱水分解反応境界は5 GPa以下でしか報告されておらず、それ以上の圧力では報告がない。さらに、緑泥石の状態方程式に関する過去の報告の多くは室温・高圧条件のもので、高温・高圧下での報告はわずかにしか存在しない。これらのことを踏まえ、本研究ではX線その場観察を用いて高温高圧下における緑泥石の脱水分解反応境界とその状態方程式の決定を行った。2.実験方法 高温高圧下におけるX線その場観察実験は高エネルギー加速器研究機構、PF?AR、NE5C設置のMAX80を用いて行った。出発物質には天然の緑泥石を用い、反応実験では分解後の流体の放出を防ぐカプセル材として単結晶ダイヤモンドと金のキャップを使用した。緑泥石の分解反応境界はX線その場観察時分割測定実験によって決定し、得られた回折線と回収試料の組織観察より生成相の同定を行った。状態方程式を求める実験(P-V-T実験)では同施設の高圧発生装置を用い、試料への差応力の影響を防ぐため試料はNaClスリーブに封入した。3.結果&考察 緑泥石は3 GPa付近では800℃付近まで安定に存在し、4 GPa以上で脱水分解反応境界は負のdT/dP勾配となった。7 GPa以下の圧力下ではフォルステライト、パイロープ、フルイドへの分解が確認された。一方7 GPa以上ではMgサーササイトと未知相に分解した。この反応境界は450℃付近に位置しdT/dP=~0となり、緑泥石の相平衡境界を超えた領域で確認できるカイネティック境界であると考えられる。これまでの相平衡実験では数十時間保持する実験が一般的であったが、本研究結果より500℃以上の条件下では緑泥石は比較的短時間(1時間以内)で平衡状態となるがそれ以下の温度では極めて反応速度が遅くなると考えられる。今回の結果から緑泥石を伴う沈み込むスラブの挙動を考えると、暖かいスラブの場合緑泥石は無水鉱物の組み合わせへと分解するため、それ以深へと水を運搬することができない。しかし、7 GPa付近で500℃以下の冷たいスラブの場合、緑泥石はMgサーササイトを含む鉱物組み合わせへと分解し、さらに地球深部へ水を運搬することが可能である。また更に高温高圧力領域ではMgサーササイトはPhase Aを含む鉱物組み合わせへと分解することが報告されており、緑泥石は地球深部へと水を運搬する重要な鉱物の一つであると考えられる。発表では状態方程式の結果も報告する。