17:00 〜 17:15
[SMP46-14] 領家変成岩中に見られる流体起源の珪線石脈について
キーワード:珪線石(フィブロライト), 領家帯, 流体起源, 複変成作用
複変成地域の熱構造の発達過程を理解するためには、それぞれの変成作用を識別することが必要不可欠である。こうした研究には、例えば広域変成作用とその後の花崗岩の貫入による接触変成作用を識別する研究が存在するが (たとえば、Miyake et al., 1992; Kawakami and Suzuki, 2011) 複変成時の流体の挙動に注目した研究は多くはない。Johnson et al. (2003) は、接触変成帯の変成岩中に存在する針状の珪線石(フィブロライト)から成る脈を報告し、それが流体起源であると議論している。 京都府笠置地域には、砂岩泥岩起源の片岩や片麻岩などの領家変成岩が広く露出している。新期領家花崗岩が変成岩に非調和的に貫入しているため、変成岩には広域変成作用と新期領家花崗岩による熱的影響 (Ozaki et al., 2000) や花崗岩起源の流体活動による影響が重複して記録されている。泥質な変成岩中に珪線石が存在することによって定義される珪線石帯も複変成の影響を受けているが (Ozaki et al., 2000)、珪線石の成因については細かく考察されていない。 笠置地域では、フィブロライトの集合体が広域変成作用によって生じた片麻状構造を切る産状がよく見られ、こうした珪線石が広域変成作用起源であると考えるのは難しいように思われる。本研究では、砂質片麻岩中に貫入した花崗岩から派生している珪線石脈の産状を紹介し、流体起源の珪線石について議論する。 珪線石脈を含む砂質片麻岩の試料は、珪線石帯中に貫入する領家花崗岩との接触部付近から採取した。当該試料中では、花崗岩が片麻面に非調和に貫入し、片麻状構造にほぼ平行な珪線石脈が生じている。珪線石脈はフィブロライトとそれを置換する後退変成作用で生じた白雲母から成る。脈直近の石英は、脈から離れたマトリクス中の石英よりも粗粒であり、フィブロライト結晶を包有する。石英中に包有されるフィブロライト結晶量は珪線石脈から離れるほど少なくなる。フィブロライトは主に脈か石英中に存在している。また、斜長石は砂質なマトリクス中には多数存在するが、珪線石脈中は周辺にはほとんど存在しない。後退変成作用によって珪線石を置換した細粒な白雲母(元・珪線石)がマトリクスの結晶粒界に沿って存在する。カリ長石は試料中には存在しないが、片麻状構造を切っている後退変成作用起源の白雲母がマトリクス中に豊富に存在する。 カソードルミネッセンス (CL) 像による微細構造の観察から、石英の発光強度が珪線石脈からの距離に応じて変化することが明らかになった。特に、石英単結晶中であっても、より多くのフィブロライトを包有している部分の方がCL像では暗い。これは、フィブロライトを包有するCL像が暗い石英部分は、フィブロライトを包有せずCL像で明るく見える部分と起源が異なる可能性を示唆する。CL像が暗い部分は、フィブロライト形成時に同時に成長した部分であると考えられる。こうした微細構造の観察から、珪線石脈は領家花崗岩から放出された流体によって形成されたと考えられる。岩石中の既存鉱物と流入流体中の水素イオンとの反応によるフィブロライトの形成についてはVernon (1979) が議論している。さらに、ケイ酸塩鉱物と酸性水溶液との反応により、Al2SiO5鉱物と白雲母が生成することが実験的に示されている(Burnham, 1967)。本研究で紹介した試料中では、フィブロライトが脈や石英結晶中に存在し、石英に包有されているフィブロライトや斜長石の量が脈からの距離に応じて変化している。こうした観察事実から、花崗岩からの流体が脈状に流入して砂質なマトリクスと反応し、斜長石を溶解しつつ、より粗粒な石英とそれに包有されているフィブロライトを同時に形成した可能性がある。このような斜長石の溶解と珪線石の形成は、石英共存下の3kbar、600℃程度の温度圧力条件で、アルカリ元素濃度に比して水素イオン濃度の高い流体が流入したと考えると可能であることがSUPCRT92 (Johnson et al. 1992)を用いた熱力学計算によりわかった。したがって、本研究で紹介した珪線石脈を形成しているフィブロライトは広域変成起源ではなく、領家花崗岩による接触変成作用時の流体起源であると考えられる。