17:15 〜 17:30
[SMP46-P12_PG] 東ネパールMCTゾーンにおける変成同時の流体流入と優白質花崗岩の成因論
ポスター講演3分口頭発表枠
キーワード:流体, 電気石, ホウ素, 逆転変成作用, 部分溶融, 大陸衝突帯
大陸衝突帯における変成作用同時の流体活動は、優白質花崗岩の成因や流体・メルトを介した物質移動の観点から非常に重要である。電気石は大陸地殻に普通に産出する、広い安定領域を持つ副成分鉱物であり[1]、泥質変成岩中の重要なホウ素の貯蔵庫鉱物である[2, 3, 4]。貯蔵庫鉱物の存在しない環境下では、ホウ素はインコンパティブルに振る舞い、流体に入って移動する。しかし温度-圧力-組成条件が整うと、電気石や他のホウ珪酸塩鉱物として岩石-流体相互作用の場で固定される。従って、電気石はホウ素を含む流体のトレーサーに適している[4]。電気石は極性結晶であるので、それぞれの極が異なる陽イオン濃度をもち、その極性は650℃程度まで存在する。従って、電気石の異なる極間の元素分配は地質温度計として用いることが出来る[2, 5]。
私たちは、ネパール東部ダンクッタ周辺のMCTゾーンにおける石英脈と電気石脈の産状を調査した。本地域には泥質片岩が広く分布し、ドロマイト岩やコーツァイト、マフィック岩が挟在する。変成度は藍晶石帯から十字石帯、ザクロ石帯へと、南に向かってMCTからの距離が増加するほど低くなる。泥質片岩には石英脈が多産するが、MCTの活動に伴う南フェルゲンツの延性変形を受けてレンズ状の形状を示す。藍晶石帯では石英脈中にmmからcmサイズの藍晶石が、少量の斜長石とともに含まれる。ザクロ石と藍晶石は石英脈の直近でのみ粗粒であり、藍晶石は石英脈の周囲にのみ産する傾向がある。このことは、石英脈を形成した流体の活動が、藍晶石帯の変成ピーク前後に起き、Si、Al、Na、Caが流体中に含まれ運搬されていたことを示す。この流体活動の温度圧力条件はGrt-Ky-Pl-Bt-Qtz組み合わせを用い、約8kbar 、600℃と暫定的に見積もられた。十字石帯やザクロ石帯においても同様に、石英脈の直近でザクロ石が粗粒化する。従って、このような石英脈は、変成作用の昇温期ならびにピーク変成時に、各変成分帯に対し、系外から流入した流体の証拠である。
MCTゾーンの泥質片岩中には、局所的に非常に大量の電気石が産することがある。こうした電気石は、白雲母に富むアルミナスな層に選択的に産するが、これは外部からのホウ素の流入に伴い、電気石の形成に適した全岩組成の層に電気石が形成されたものと考えられる。昇温変成を示す組成累帯構造をもつザクロ石中に大量の電気石が包有されることから、このような含ホウ素流体の流入は昇温変成期から起きていたと考えられる。さらに、片理面を切って貫入する電気石脈が存在することから、ピーク変成以降も含ホウ素流体の流入は続いた。電気石の極間のCa/Na分配[5]から、電気石脈の形成温度は約530-590℃と推定される。このような流体の起源は、各変成分帯の構造的下位に存在する、より低変成度の変堆積岩類かもしれない。なぜなら、こうした変堆積岩中での脱水反応により、水だけでなくホウ素も供給可能だからである。
MCTゾーンにおける、昇温変成期から変成ピーク直後までにおよぶ含ホウ素流体の流入は、形成場や成因論に関する議論が続くハイヒマラヤやテチスヒマラヤの優白質花崗岩の成因[6]にとって重要であり、本研究の観察は流体存在下での溶融[7]を支持する。MCT直上のハイヒマラヤのミグマタイト中に産する含電気石優白質花崗岩脈は、こうした含ホウ素流体流入に伴う、MCT近辺での溶融の産物かもしれない。
引用文献: [1] van Hinsberg et al, 2011, Can Min, 49, 1-16. [2] Henry & Dutrow, 1996, Rev Min, 33, 503-557. [3] Sperlich et al, 1996, Am Min, 81, 1222-1236. [4] Kawakami, 2004, TRSE, 95, 111-123. [5] van Hinsberg & Schumacher, 2007, CMP, 153, 289-301. [6] Guo & Wilson, 2012, GR, 22, 360-376. [7] Le Fort, 1981, JGR, 86, 10545-10568.
私たちは、ネパール東部ダンクッタ周辺のMCTゾーンにおける石英脈と電気石脈の産状を調査した。本地域には泥質片岩が広く分布し、ドロマイト岩やコーツァイト、マフィック岩が挟在する。変成度は藍晶石帯から十字石帯、ザクロ石帯へと、南に向かってMCTからの距離が増加するほど低くなる。泥質片岩には石英脈が多産するが、MCTの活動に伴う南フェルゲンツの延性変形を受けてレンズ状の形状を示す。藍晶石帯では石英脈中にmmからcmサイズの藍晶石が、少量の斜長石とともに含まれる。ザクロ石と藍晶石は石英脈の直近でのみ粗粒であり、藍晶石は石英脈の周囲にのみ産する傾向がある。このことは、石英脈を形成した流体の活動が、藍晶石帯の変成ピーク前後に起き、Si、Al、Na、Caが流体中に含まれ運搬されていたことを示す。この流体活動の温度圧力条件はGrt-Ky-Pl-Bt-Qtz組み合わせを用い、約8kbar 、600℃と暫定的に見積もられた。十字石帯やザクロ石帯においても同様に、石英脈の直近でザクロ石が粗粒化する。従って、このような石英脈は、変成作用の昇温期ならびにピーク変成時に、各変成分帯に対し、系外から流入した流体の証拠である。
MCTゾーンの泥質片岩中には、局所的に非常に大量の電気石が産することがある。こうした電気石は、白雲母に富むアルミナスな層に選択的に産するが、これは外部からのホウ素の流入に伴い、電気石の形成に適した全岩組成の層に電気石が形成されたものと考えられる。昇温変成を示す組成累帯構造をもつザクロ石中に大量の電気石が包有されることから、このような含ホウ素流体の流入は昇温変成期から起きていたと考えられる。さらに、片理面を切って貫入する電気石脈が存在することから、ピーク変成以降も含ホウ素流体の流入は続いた。電気石の極間のCa/Na分配[5]から、電気石脈の形成温度は約530-590℃と推定される。このような流体の起源は、各変成分帯の構造的下位に存在する、より低変成度の変堆積岩類かもしれない。なぜなら、こうした変堆積岩中での脱水反応により、水だけでなくホウ素も供給可能だからである。
MCTゾーンにおける、昇温変成期から変成ピーク直後までにおよぶ含ホウ素流体の流入は、形成場や成因論に関する議論が続くハイヒマラヤやテチスヒマラヤの優白質花崗岩の成因[6]にとって重要であり、本研究の観察は流体存在下での溶融[7]を支持する。MCT直上のハイヒマラヤのミグマタイト中に産する含電気石優白質花崗岩脈は、こうした含ホウ素流体流入に伴う、MCT近辺での溶融の産物かもしれない。
引用文献: [1] van Hinsberg et al, 2011, Can Min, 49, 1-16. [2] Henry & Dutrow, 1996, Rev Min, 33, 503-557. [3] Sperlich et al, 1996, Am Min, 81, 1222-1236. [4] Kawakami, 2004, TRSE, 95, 111-123. [5] van Hinsberg & Schumacher, 2007, CMP, 153, 289-301. [6] Guo & Wilson, 2012, GR, 22, 360-376. [7] Le Fort, 1981, JGR, 86, 10545-10568.