日本地球惑星科学連合2014年大会

講演情報

口頭発表

セッション記号 S (固体地球科学) » S-MP 岩石学・鉱物学

[S-MP47_1AM1] 鉱物の物理化学

2014年5月1日(木) 09:00 〜 10:45 422 (4F)

コンビーナ:*奥寺 浩樹(金沢大学理工学域自然システム学系)、興野 純(筑波大学大学院生命環境科学研究科地球進化科学専攻)、座長:鎌田 誠司(東北大学大学院理学研究科)、興野 純(筑波大学大学院生命環境科学研究科地球進化科学専攻)

09:30 〜 09:45

[SMP47-03] Zn2SiO4の相転移:第一原理計算による研究

*神崎 正美1 (1.岡山大学地球物質科学研究センター)

キーワード:Zn2SiO4, 相転移, 高圧相, 第一原理, 転移メカニズム

ZnとMgはほぼ同じイオン半径を持つが、その化合物は異なる構造を持つ。例えばZn2SiO4の常圧相はwillemiteであり、Znの配位数は4である。相関係はかなり以前に調べられており、少なくとも4つの高圧相(II, III, IV, V)が知られている。II相とV相については構造は既に知られており、V相は変形スピネル構造を取るが、オリビンやスピネル相は見つかっていない。III, IV相の構造については最近解明された(Liuら, PCM,40,467,2013)。しかし得られたIII, IV相の常圧での密度は低圧相のII相よりも低く、III相に至っては常圧相よりも低い。そのため、これらの2相が高温高圧状態では別の構造であって、回収時に相転移したのではないかという疑いが生じてくる。本研究ではその点を調べるために第一原理計算を行った。第一原理計算は擬ポテンシャルを使うQuantum-Espressoのpwscfコードを使った。既に知られている構造、予想される相を含め、12の相を扱った。25 GPaまで1 GPa刻みで構造最適化計算を行った。その結果から0 Kでのエンタルピーを計算して、各相の安定性を調べた。圧縮率を比較するとIII相が顕著に圧縮されやすいことが分かった。1気圧では密度が最低であったが、I,II,IV相を抜いて、21 GPaではオリビン相とほぼ同じ密度となった。III相の構造はオリビン構造からM席の陽イオンを空いている4配位席に移動させたと見なせるため、圧縮における両相の比較は興味深い、圧力による構造変化について調べたところ、III相のM1, M2席に対応する空席は常圧下では体積が大きいが、圧力とともに急激に減少し、21 GPaではオリビン構造のM1, M2席の体積とほぼ同じとなった。したがって、III相の大きな圧縮率は空席のM1, M2の圧縮によると考えられる。III相は22 GPaで構造最適化中に「相転移」を起こして、Siの配位数6、Zn配位数5の未知高圧構造となった。一方、IV相は12 GPaで相転移を起こして、Na2SO4 III構造(Cmcm)になった。この構造ではZnは4と6配位両方の席を占める。なお、AlPO4等で同じ空間群のCrVO4相があるが、この構造とは深い関係があり、Na2SO4 III相から4配位Znを取り除くとこの構造が得られる。II相ではZnは4配位であるが、I相よりはコンパクトな構造であり、Si3N4やC3N4高圧相のモデル(w-II)としても知られている。II相は26 GPaにおいて相転移を示し、スピネル構造が得られた。実はSi3N4などのシミュレーションから、w-IIからスピネル構造への転移は既に知られており、II相で見られた相転移も同じメカニズム(酸素のBCCからFCC)であることが分かった。Zn2SiO4のスピネル相は高圧実験では得られていないが、II相をDACで圧縮することで準安定に得られる可能性が示された。0 Kでのエンタルピーを比較したところ、約4 GPaまではwillemiteが安定で、4 GPaでII相が安定となる。これは実験と一致する。III, IV相についてはエンタルピーは常に高く、全ての圧力領域で安定相にはなり得ない。またオリビン相についても同様で、Zn2SiO4でこの相が実験的に得られないことを説明する。約11 GPaでII相からNa2SO4 II相が安定となる。Na2SO4 II相ではZnは4と6配位両方の席を占める。約13 GPaでV相(変形スピネル)が安定となる。V相は実験的にもこの辺の圧力で安定である。約16 GPaでIII-HP相が安定となる。実験的にはV相が高圧側でZnO(B1)とilmenite-ZnSiO3に分解するので、実験的にはIII-HP相は安定化しないと考えられる。今回の計算では、III, IV相が高圧下で安定ではないことが明らかとなったが、一方で高圧下で安定な相については明確な結論は得られなかった。エンタルピー的にはNa2SO4 II相が安定と示されたが、この相はIII, IV相から直接の転移では得られていない。Na2SO4 III相はIV相の圧縮で得られるが、エンタルピー的にNa2SO4 II相より下がらない。しかしこれらの関係は、現在取り入れられていない振動の寄与などで変わる可能性は残っている。今後、QHA計算や実物実験で解明していく予定である。