日本地球惑星科学連合2014年大会

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口頭発表

セッション記号 S (固体地球科学) » S-RD 資源・鉱床・資源探査

[S-RD45_28PM1] 資源地質学の新展開: 地球環境変動と元素濃集

2014年4月28日(月) 14:15 〜 16:00 415 (4F)

コンビーナ:*星野 美保子((独)産業技術総合研究所)、山岡 香子(産業技術総合研究所地質情報研究部門)、野崎 達生(海洋研究開発機構地球内部ダイナミクス領域)、高橋 亮平(秋田大学大学院工学資源学研究科)、座長:山岡 香子(産業技術総合研究所地質情報研究部門)、野崎 達生(海洋研究開発機構地球内部ダイナミクス領域)

14:15 〜 14:45

[SRD45-01] 海洋における酸化還元環境の変遷と元素濃集

*大竹 翼1 (1.北海道大学大学院工学研究院)

キーワード:化学堆積岩, 縞状鉄鉱層, バーバトン緑色片岩帯, クロム, 黒鉱鉱床, 鉄同位体

海洋や熱水からの沈殿物で構成させる化学堆積岩は,様々な有用元素を濃集させるだけでなく,地球表層環境の変遷を記録している。例えば,鉄に富む化学堆積岩である縞状鉄鉱層は初期地球において大気や海洋環境の進化を記録していると考えられ,これまでに様々な研究が行われてきた。しかしながら,これまでの研究対象となってきた太古代の縞状鉄鉱層は主に深海層に限られていたが,海洋環境の変遷をより詳細に明らかにするためには様々な堆積環境における縞状鉄鉱層を対象にする必要がある。本研究では,当時の地球表層環境についての情報をより保持していると考えられる浅海性の堆積岩に着目し,南アフリカ・バーバトン緑色片岩帯に見られる約32億年前の浅海性堆積岩の地質学的,岩石学的および地球化学的特徴を調べた。その結果,砂岩などの堆積岩に挟まれている縞状鉄鉱層のCr/Ti比やU/Th比は,その前後の砕屑性堆積岩と比較して最大で1桁ほど高い値を示した。また,SIMSを用いて測定したCrのホスト鉱物であるクロム鉄鉱の粒子ごとの酸素同位体比は,火成起源のものと比較して軽い値を示し,熱水条件下での形成を示唆する結果となった。これらのことより,32億年前の浅海域ではすでに酸化的な海洋が存在し,酸化的な環境では溶解度の高いクロムやウランなどが溶存しており,鉄酸化物の沈殿時に吸着・共沈することによってCrやUの濃集が起こったと考えられる。 秋田県北鹿地域にみられる黒鉱鉱床は,中新世の海底熱水活動により形成した塊状硫化物鉱床である。主な鉱石鉱物は黄鉄鉱や黄銅鉱物などの硫化鉱物であり,還元的な環境で安定な鉱物である。したがって,大規模海底熱水鉱床の形成や保存は海洋の環境変動,特に深海の貧酸素化と関連していると考えられているが,これらの地球化学的な証拠は未だ得られていない。黒鉱鉱床の周辺部には,熱水性の鉄やマンガンに富む化学堆積岩がみられるため,これらのレアアースパターンと鉄安定同位体比から黒鉱鉱床時やその後の北鹿海盆の酸化還元環境の変遷について検討を行った。MC-ICPMSによる鉄同位体比の分析の結果,黒鉱鉱床形成直後の試料は,火成起源の岩石と同様のδ56 Fe値を持つ標準試料から大きな分別を示した。鉄安定同位体比は, 溶存二価鉄から酸化鉄として部分酸化する際に同位体分別を起こす事が知られており,当時の北鹿海盆深部に還元環境が広がっていたことを示唆する。また,これらの試料においてREEパターンが負のCe異常を示したことから,還元的なリザーバー中の溶存鉄が酸化的な海水との混合によって部分酸化されたことを示している。その一方で,その後の200?300万年の間に堆積した化学堆積岩のδ56 Fe値は熱水中の鉄同位体比と同様の-0.8?0.3‰であり,酸化的な海洋中で溶存二価鉄のほぼ完全に酸化されたことを示唆している。これらの結果より,北鹿海盆は黒鉱鉱床形成時の還元的な環境から,海盆の浅化に伴い酸化的な環境へと変化していったと考えられ,このような大規模塊状硫化物鉱床の形成において還元的な堆積環境が重要な要因の一つであることを示唆している。