日本地球惑星科学連合2014年大会

講演情報

口頭発表

セッション記号 S (固体地球科学) » S-SS 地震学

[S-SS23_1AM1] 強震動・地震災害

2014年5月1日(木) 09:00 〜 10:45 211 (2F)

コンビーナ:*元木 健太郎(小堀鐸二研究所)、座長:前田 宜浩(防災科学技術研究所)

09:45 〜 10:00

[SSS23-04] 構造物の耐震検討の立場から見た2011年東北地方太平洋沖地震の複数の震源モデルのパフォーマンスの比較

*野津 厚1 (1.港湾空港技術研究所)

キーワード:巨大地震, 東北地方太平洋沖地震, 震源モデル, 強震動, SPGAモデル, SMGAモデル

2011年東北地方太平洋沖地震(Mw9.0)は,今日のような密な強震観測網(e.g., Kinoshita, 1998)が構築されて以来,初めて発生したM9クラスの巨大地震である.この地震の発生により我々はM9クラスの巨大地震による強震動の実態を初めて知ることになったと言える.今後,他の地域を対象として,同程度の規模の地震を想定した強震動評価を行う機会が増えるものと考えられるが,その際の震源のモデル化においては,東北地方太平洋沖地震の強震記録から得られる知見を反映させることが極めて重要と考えられる.その際,強震動予測の目的が構造物の耐震検討である場合には,対象とする構造物に影響を及ぼしやすい周波数帯域の地震動を正確に計算できる震源モデルが求められる.本研究では,今後の強震動予測に用いる震源モデルの選択に資することを目的とし,各々の震源モデルから計算される地震動と,実際に観測された地震動との誤差を,構造物への影響が大きい帯域を中心に定量的に評価し,震源モデルのパフォーマンスに関する定量的な比較を行った.本研究で対象とした震源モデルは,SPGAモデル(=スーパーアスペリティモデル)(野津他,2012),疑似点震源モデル(野津,2012),およびSMGAモデル(佐藤,2012;Asano and Iwata, 2012;川辺・釜江,2013)である.SPGAモデルとは,東北地方太平洋沖地震をはじめとする海溝型巨大地震において特徴的な強震動パルスのパルス幅と調和的なサイズのサブイベント(SPGA)から構成される震源モデルであり,サブイベントのサイズは対象地震の場合一辺が数km程度である.一方,SMGAモデルは,より広い領域(対象地震の場合,一辺が数十km程度)からまんべんなく強震動が生成されるとする震源モデルである.これらはいずれも特性化震源モデルの範疇に属するもので,グリーン関数の重ね合わせにより地震動が計算される.それに対して,疑似点震源モデルは,特性化震源モデルよりもさらに単純化された震源モデルであり,各サブイベントに起因する地震動のフーリエ振幅だけが規定される.なお,本地震に対して提案されているSMGAモデルのうちKurahashi and Irikura(2013)のものについては本研究では対象としなかった.その理由は,Kurahashi and Irikuraの震源モデルにおいては,2005/8/16宮城県沖の地震(Mw7.2)の記録の後半部分がグリーン関数として用いられているが,一部の観測点では,記録を前半部分と後半部分に分けることが,著者にとっては困難であったためである.地震動の計算には,基本的に,各々の震源モデルの構築に用いられたのと同様の計算手法を用いた.すなわち,佐藤(2012)のSMGAモデルについては壇・佐藤(1998)の経験的グリーン関数法を用い,Asano and Iwata (2012),川辺・釜江(2013)によるSMGAモデルについては入倉他(1998)の経験的グリーン関数法を用いた.グリーン関数イベントとして用いた中小地震も,個々の文献に示されたものと同様である.SPGAモデルと疑似点震源モデルについてはそれぞれの文献に示された方法で地震動を計算した.対象地点については,①サブイベントが存在する宮城県から茨城県までの範囲をカバーすること,②地盤の非線形挙動の影響が大きいサイトを避けること,③各々の文献で用いられた中小地震記録が漏れなく観測されていることを念頭に置き10地点を選定した.代表的な地点として,MYGH12における地表NS成分(0.2-1Hz)の比較を図に示す.観測波形には強震動パルスが明瞭に表れており,SPGAモデルではこれを再現できるが,SMGAモデルではこれを再現することができない.野津(2012)と同様の評価式を用い,速度波形(0.2-1Hz),速度envelope(0.2-10Hz)およびフーリエスペクトル(0.2-10Hz)に関する誤差評価を行ったところ,港湾構造物に対して影響の大きい0.2-1Hzの帯域だけでなく,より高周波成分まで含めても,SPGAモデルおよび疑似点震源モデルの誤差がSMGAモデルより小さいという結果であった.次に,建物被害と対応の良い指標として境・他(2002)により提案されている「1-2秒震度」の計算を行った結果,SPGAモデルは観測波の「1-2秒震度」を概ね再現できているのに対し,SMGAモデルではSPGAモデルに対して2.2倍~3.8倍程度の誤差が生じることがわかった.以上のように,構造物の地震時挙動に大きく影響すると考えられる強震動パルスを再現できること,建物被害と対応の良い指標である「1-2秒震度」の再現性が良いことなどから,一般的な構造物の耐震検討に用いる地震動を評価するための震源モデルとしてはSPGAモデル(または疑似点震源モデル)が適していると考えられる. 謝辞:防災科学技術研究所の強震記録を使用しました.