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[SSS23-P19] 2013年2月25日栃木県北部の地震の震源モデルと強震動シミュレーション
キーワード:2013年栃木県北部の地震, 波形インバージョン, 経験的グリーン関数法, 震源モデル, 強震動シミュレーション
2013年2月25日栃木県北部の地震(MJMA 6.3)により,KiK-net栗山西観測点(TCGH07)(点震源距離約5km)では,1225 cm/s2,39 cm/s(いずれも地表記録の3成分最大値)の大きな強震動記録が得られた.この地震の発生域では活断層が特定されておらず,その地震規模も比較的小さいことから,震源を特定しにくい地震に分類される可能性がある.本研究は,この地震によってTCGH07で観測された強震動の生成メカニズムを明らかにすることを目的とする.ここでは,周辺の観測記録を広帯域に再現し得る最適な震源モデルの構築を目指し,2つのアプローチから本地震の震源像を推定した.
1つ目は,K-NET,KiK-netの計15地点の速度波形(0.1-1.0 Hz)を対象としたマルチタイムウィンドウ線形波形インバージョン法(Sekiguchi et al., 2000)による震源過程の推定である.矩形断層面(走向12km×傾斜7km)を一辺1.0 kmの正方形の小断層で分割した.各タイムウィンドウのすべり時間関数は,ライズタイム0.6秒の平滑化傾斜関数で表現し,6つのタイムウィンドウを0.3秒間隔で置いた.また,第1タイムウィンドウの破壊伝播速度(FTWTV)は2.4 km/sとした.なお,ライズタイムとFTWTVはパラメタを変えたインバージョンを行い,波形フィットの残差が最小となる値を選択している.また,すべりの時空間方向の平滑化の強さは,ABICにより妥当な値を決定した.一次元速度構造モデルは,検層データなどを基にした初期モデルに対して,レシーバ関数と滑降シンプレックス法(Nelder and Mead, 1965)を用いたモデルチューニングを行った.モデルの妥当性は余震を対象としてグリーン関数を計算し,観測記録(0.1-1.0 Hz)との比較を行うことで検証した.
波形インバージョンの結果,最大すべり量が0.98m,断層面全体から解放された地震モーメントは6.67×1017Nm(Mw 5.8)であった.大きなすべりを生じた領域は破壊開始点付近にあり,主に北側,やや浅部に向かって拡がっている.この傾向は,引間 (2013)や芝 (2013)のすべり分布とも対応する.今回の結果の各要素断層からの地震波の寄与とそれらの重ね合わせに注目し,対象とした0.1-1.0 Hzの周波数帯域におけるTCGH07のパルス波形(地表と地中)の生成要因を調べた.その結果,震源近傍における横ずれ断層型の断層走向並行方向に対する放射特性による影響と,破壊開始点から地表方向(TCGH07の方向)に向かう破壊伝播指向性に起因するパルス波形である事が明らかとなった.
2つ目は,強震動生成領域(SMGA)(Miyake et al., 2003)に注目し,より短周期の強震動(0.3-10 Hz)を対象とした経験的グリーン関数法(Irikura, 1986)による震源のモデル化を行った.経験的グリーン関数(要素地震)には2013年2月25日23時32分に発生した余震(Mw3.8)を採用した.SMGAの配置は,波形インバージョンの結果を参考に破壊開始点を含んだ領域とし,SMGAのパラメタ(大きさ,破壊開始点位置,ライズタイム,破壊伝播速度)は,加速度エンベロープと変位波形の残差評価を行い,残差が最小となるパラメタをグリッドサーチにより探索した(Miyake et al., 2003).
推定された震源モデル(SMGA)は,波形インバージョンによる大すべり領域と同様に,主として北側,やや浅部に向かって破壊が伝播する様式である.TCGH07の速度波形(0.3-10 Hz)に着目すると,速度波形に見られるパルス波は,やはり破壊伝播指向性(破壊開始点から地表)によって生成されている事が確認できた.一方で,加速度波形に注目すると,破壊伝播方向による違いは小さくなるが,本モデルにおいて再現性は良好である. SMGAの応力降下量は,16.4MPaと内陸地殻内地震のアスペリティの平均応力降下量よりもやや大きく推定されているが,震源近傍の記録は,振幅が過大評価な地点もある.
これらの結果から,TCGH07でのパルス波形はアスペリティ(SMGA)近傍で放射特性の影響と,傾斜方向の破壊伝播指向性の効果によって生成されたと考えられる.1995年兵庫県南部地震では,断層の走向方向の線上において,パルス状の大振幅波形が観測され,その成因が横ずれ断層型地震の走向方向に対する破壊伝播指向性の効果によるものである事が知られている(例えば,Sekiguchi et al., 2002).今回のケースではTCGH07は横ずれ断層の走向方向に対して真横に位置しているが,上述した効果によっても,大きな強震動が生成される可能性があることは重要な問題である.
1つ目は,K-NET,KiK-netの計15地点の速度波形(0.1-1.0 Hz)を対象としたマルチタイムウィンドウ線形波形インバージョン法(Sekiguchi et al., 2000)による震源過程の推定である.矩形断層面(走向12km×傾斜7km)を一辺1.0 kmの正方形の小断層で分割した.各タイムウィンドウのすべり時間関数は,ライズタイム0.6秒の平滑化傾斜関数で表現し,6つのタイムウィンドウを0.3秒間隔で置いた.また,第1タイムウィンドウの破壊伝播速度(FTWTV)は2.4 km/sとした.なお,ライズタイムとFTWTVはパラメタを変えたインバージョンを行い,波形フィットの残差が最小となる値を選択している.また,すべりの時空間方向の平滑化の強さは,ABICにより妥当な値を決定した.一次元速度構造モデルは,検層データなどを基にした初期モデルに対して,レシーバ関数と滑降シンプレックス法(Nelder and Mead, 1965)を用いたモデルチューニングを行った.モデルの妥当性は余震を対象としてグリーン関数を計算し,観測記録(0.1-1.0 Hz)との比較を行うことで検証した.
波形インバージョンの結果,最大すべり量が0.98m,断層面全体から解放された地震モーメントは6.67×1017Nm(Mw 5.8)であった.大きなすべりを生じた領域は破壊開始点付近にあり,主に北側,やや浅部に向かって拡がっている.この傾向は,引間 (2013)や芝 (2013)のすべり分布とも対応する.今回の結果の各要素断層からの地震波の寄与とそれらの重ね合わせに注目し,対象とした0.1-1.0 Hzの周波数帯域におけるTCGH07のパルス波形(地表と地中)の生成要因を調べた.その結果,震源近傍における横ずれ断層型の断層走向並行方向に対する放射特性による影響と,破壊開始点から地表方向(TCGH07の方向)に向かう破壊伝播指向性に起因するパルス波形である事が明らかとなった.
2つ目は,強震動生成領域(SMGA)(Miyake et al., 2003)に注目し,より短周期の強震動(0.3-10 Hz)を対象とした経験的グリーン関数法(Irikura, 1986)による震源のモデル化を行った.経験的グリーン関数(要素地震)には2013年2月25日23時32分に発生した余震(Mw3.8)を採用した.SMGAの配置は,波形インバージョンの結果を参考に破壊開始点を含んだ領域とし,SMGAのパラメタ(大きさ,破壊開始点位置,ライズタイム,破壊伝播速度)は,加速度エンベロープと変位波形の残差評価を行い,残差が最小となるパラメタをグリッドサーチにより探索した(Miyake et al., 2003).
推定された震源モデル(SMGA)は,波形インバージョンによる大すべり領域と同様に,主として北側,やや浅部に向かって破壊が伝播する様式である.TCGH07の速度波形(0.3-10 Hz)に着目すると,速度波形に見られるパルス波は,やはり破壊伝播指向性(破壊開始点から地表)によって生成されている事が確認できた.一方で,加速度波形に注目すると,破壊伝播方向による違いは小さくなるが,本モデルにおいて再現性は良好である. SMGAの応力降下量は,16.4MPaと内陸地殻内地震のアスペリティの平均応力降下量よりもやや大きく推定されているが,震源近傍の記録は,振幅が過大評価な地点もある.
これらの結果から,TCGH07でのパルス波形はアスペリティ(SMGA)近傍で放射特性の影響と,傾斜方向の破壊伝播指向性の効果によって生成されたと考えられる.1995年兵庫県南部地震では,断層の走向方向の線上において,パルス状の大振幅波形が観測され,その成因が横ずれ断層型地震の走向方向に対する破壊伝播指向性の効果によるものである事が知られている(例えば,Sekiguchi et al., 2002).今回のケースではTCGH07は横ずれ断層の走向方向に対して真横に位置しているが,上述した効果によっても,大きな強震動が生成される可能性があることは重要な問題である.