日本地球惑星科学連合2014年大会

講演情報

口頭発表

セッション記号 S (固体地球科学) » S-SS 地震学

[S-SS25_2PM1] 地震予知

2014年5月2日(金) 14:15 〜 16:00 312 (3F)

コンビーナ:*竹内 希(東京大学地震研究所)、座長:藤原 広行(防災科学技術研究所)、吉川 澄夫(気象庁気象研究所)

15:15 〜 15:30

[SSS25-05] 地震カタログの不完全を考慮した南海トラフ地震の長期的発生確率

*岡田 正実1 (1.気象研究所地震火山研究部)

キーワード:南海トラフ, 繰り返し地震, 発生予測, ベイズ定理, 地震カタログの不完全

はじめに: 地震調査委員会は、2013年5月に「南海トラフの地震活動の長期評価(第二版)について」を発表し、南海トラフ沿いで今後30年間に大地震が発生する確率が60~70%であるとした。巨大地震の可能性もあり、報告書は社会的に大きな反響を呼んでいる。発生確率は、BPT(Brownian Passage Time)分布モデルを採用し、分布パラメータは最尤法や時間予測モデルによる推定値、または標準値(α=0.24)などを使用し、それらを条件付き確率の式に代入するものである(Plug-in方式)。パラメータ値は、いずれも少数のデータから得られたものであるが、不偏性や不確実性(推定誤差)の影響は考慮されていない。 昨年の本大会などで紹介したように、仮に地震の発生間隔がBPT分布に従うとしても、データが数個と少ないと、予測成績は、Plug-in方式のBPT分布予測モデルよりも、小標本論対数正規分布モデルの方が優れている。また、標準値α=0.24を求める際に使用したデータには大きな問題もあった。 今回は、慶長地震(1605)が南海トラフの大地震であるのかどうか疑問であるとしている。カタログ不完全で、あいまいな事例が含まれていたり、該当地震が漏れている可能性がある場合は注意を要する。ここでは、ベイズ統計対数正規分布モデルを使用し、不完全なカタログから発生確率を計算する方法を考察し、南海トラフの大地震に適用した結果を紹介する。発生確率の計算: 報告書では、南海トラフで3年以内に続けて発生した場合は一つのイベントとして扱い、白鳳(天武)地震以後の9イベントが取り上げられている。確率計算は、“発生間隔のみを利用する場合”と“時間予測モデルを用いる場合”が説明されているが、ここでは、データ及び計算方法が明らかな前者のみを対象とする。 該当地震を組合わせを変えた5ケースについて、最尤法でパラメータ値を求め、2013年1月から30年間における発生確率を計算している。結果は、①9個の地震すべてを使用:10%程度(13%)、 ②①から慶長地震を除いた場合:6%(7%)、 ③正平(康安)地震以降をすべて使用:20%程度(22%)、 ④③から慶長地震を除いた場合:10%程度(14%)、 ⑤宝永地震以降を使用:30%程度(21%) となっている。括弧内の数字は、小標本論対数正規分布モデルで計算した場合で、①~④のケースではあまり差がない。しかし、⑤の場合はデータ数が少ないことを考慮する小標本論の値がかなり小さくなっている。これらの結果は、完全なデータセットであるとして適用したものであり、不完全なデータを用いた計算方法としては不適当である。 不完全なデータセットには、小標本論が使用できないので、ベイズ統計(無情報事前分布)対数正規分布モデルを用いて、より現実的と思われる以下の条件の下で発生確率の計算を試みた。完全な発生間隔に対する尤度は確率密度関数の積であるが、不完全な発生間隔に対しては分布関数を使って尤度が定義される。①3期間(白鳳地震~仁和地震、仁和地震~康和・永長地震、明応地震~宝永地震)内に他の南海トラフの地震が存在したかどうか分からない。慶長地震が南海トラフの地震であったかどうかも分からない。②康和・永長地震~正平(康安)地震の間(263.5年間)には、発生時不明だが、該当地震が1個以上存在した。③3期間(正平(康安)地震~明応地震、宝永地震~安政地震、安政地震~昭和地震)のデータは完全であり、これらの期間内には他の該当地震が存在しない。 仮定②を満たす計算を表計算ソフト(Excel)で実行できなかったので、緩やかな条件「2個以上ある発生間隔のうち、短いものは全期間(263.5年)の半分以下である。長い方の発生間隔は全期間より短い。」に置き換えて計算した。計算結果: 求まった2013年から30年間の発生確率は22.9%であり、報告書の値“60~70%”より大幅に低い。しかし、③の完全なデータだけからもとめた発生確率18.5%よりやや高い。