日本地球惑星科学連合2014年大会

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口頭発表

セッション記号 S (固体地球科学) » S-SS 地震学

[S-SS25_2PM1] 地震予知

2014年5月2日(金) 14:15 〜 16:00 312 (3F)

コンビーナ:*竹内 希(東京大学地震研究所)、座長:藤原 広行(防災科学技術研究所)、吉川 澄夫(気象庁気象研究所)

15:45 〜 16:00

[SSS25-07] 南海トラフ巨大地震発生域付近での最近の地下水異常変動

*佃 為成1 (1.日本女子大)

キーワード:岩盤膨張, 岩盤収縮, 水温, 水位, 前兆, 地震予知

地下岩盤に不均等な力が加わって剪断応力が高まり,剪断破壊(地震)が発生する.剪断応力が集中する周辺では岩盤にねじれの歪が現れる.そこでは,収縮場と膨張場が隣り合わせで生成される.大地震ではねじれ場の規模が大きいか,連結した小規模の場が多数生成される.剪断応力が岩盤の強度と同程度かそれを越えるレベルに増大したとき(臨界状態),何かのトリガーがかかれば大地震が起こる. 大地震の準備過程では,地下岩盤の収縮領域(圧力上昇)と膨張領域(圧力降下)の形成に伴う間隙流体圧変化により,微小クラック群から成る流体移動のパスが存在すれば,地表へ向かう上昇流体の増加や減少が起こる.深部流体は高温なので,上昇深部流体が浅層地下水に混入すると,地下水温を上昇させる.また,移動流体の量の変化によって水温変化が起こる(Tsukuda et al., 2005). 南海トラフの巨大地震の想定震源域に近い静岡県と神奈川県(東海地域)で5カ所,また和歌山県南紀地域では7カ所にて地下水温,そのうち2カ所にては水位も測定している. 東海地方の水温観測点の内, 焼津市立大富小学校内井戸(OT)と静岡市中島下水浄化センター内自噴井(NK)には高精度水晶温度計が設置されている. OT(焼津)の水温(深さ30m)は観測開始の2003年以来,平均上昇率24m℃/year の単調増加であったが,2009年8月11日の駿河湾地震(M6.5)以降,44m℃/year に上昇,2011年3月11日の東北の地震(M9.0)の頃から以前の上昇率に戻り,2012年末から上昇がさらに緩やかになってきた.焼津直下では岩盤は収縮を示すが,近年,収縮は減速している. NK(静岡)の井戸は自噴しており,季節変化は極めて小さく水温変化のトレンドは 2006年は34 m℃/year ,2007年春から67 m℃/year ,同年秋から年末までは14 m℃/year の上昇であったが,2008年初から上昇率は鈍化,同年9月頃から-40 m℃/year の率で下降に転じた(2009年8月の駿河湾地震の前兆)(佃,2012).M6.5地震以降,下降率が増加(-117 m℃/year)し,2011年8月1日の駿河湾地震(M6.2)後,さらに下降率が増加したが,その後減少し,2012年末に水温一定となり,2013年5月下旬から急上昇に変化した.静岡付近の地下岩盤は,最近,膨張から急激に収縮に転じた. 和歌山県串本町潮岬の林組の井戸(HA)と和田商店の井戸(WA)には白金測温抵抗体の水温センサー,半導体感圧素子の水位センサーを2005年に設置した.観測点HAはWAに対してほぼ南へ約600m離れている.井戸の深さはどちらも約15m.水温および水位センサーは井戸底から約40cm上の水中に設置されている. WAの水温変化2℃p-pと水位変化7m p-pに対し,HAは降雨による変化が小さく,それぞれ0.2℃p-pと5m p-pである.HAの水位とWAの水位および水温は降雨の影響や季節変化を抑えた1年間の移動平均値のグラフから長期的変動が顕わになる.潮岬の水位は長期的に上昇している.水温も上昇しつつある.地盤の沈下と岩盤の収縮を示す.潮岬(串本)では1943年南海地震以後の隆起は1990年頃から沈下に転じ現在下降中である(国土地理院,2009:小林, 2013). 白金測温抵抗体水温センサー使用の和歌山県古座川町月野瀬(KZ)の自噴温泉では2002年からパイプの出口で測定している.KZの水温は長期的には単調に下降している.地下岩盤の膨張を示唆する.GNSSデータによる面積歪も付近一帯の膨張を示す(木村一洋:私信).2004年紀伊半島沖地震(M7.4)発生以後,降下率が低下したが,2012年に入り降下率が増加し,2013年からはさらに急降下となっている.ここでは岩盤の膨張が近年,加速している. 観測点分布は限られているので,広域の状態は不明であるが,南海トラフの巨大地震発生域付近の一部地域の岩盤の変形の進行が加速している.早急に,総合的な地殻変動のモニタリングを進めるよう提案したい.