日本地球惑星科学連合2014年大会

講演情報

口頭発表

セッション記号 S (固体地球科学) » S-SS 地震学

[S-SS25_2PM2] 地震予知

2014年5月2日(金) 16:15 〜 17:00 312 (3F)

コンビーナ:*竹内 希(東京大学地震研究所)、座長:梅田 康弘(産業技術総合研究所)、ゲラー ロバート(東京大学大学院理学系研究科地球惑星科学専攻)

16:30 〜 16:45

[SSS25-09] 1946年南海地震前の四国太平洋沿岸部における海水位変化

*梅田 康弘1 (1.産業技術総合研究所 活断層・地震研究センター)

キーワード:南海地震, 海水位変化, 目撃証言, 小規模津波

1. はじめに 1946年南海地震(以下では本震と呼ぶ)の前に,四国の太平洋沿岸部で海水位変化があったという目撃証言がある.「数日前から潮が狂っていた」という証言は通常の満潮・干潮の時刻がずれていたり,通常の潮位にならなかったりしたことを意味する.本震は12月21日04時19分に発生したが,前夜(20日の夜)から直前にかけては,潮位が著しく低下していたため,帰港した漁船が接岸できなかったという証言がある.その反面,潮位の変化は無く(気が付かず)接岸できたという,相反する証言もある.これらの証言を満たす現象として,本震前に小規模な海底地殻変動があり,小規模な津波が発生していたのではないかと考えた.接岸できなかった漁船と,接岸できた漁船は帰港時がずれていて,前者は低潮位時に,後者は高潮位時に帰港したのではないかと推定した.海水位変化は本震の数日前から目撃されていることから,津波もその頃から発生し,次第に大きくなったと思われる.2. 海水位変化の周期と振幅について 本震前に津波が発生していたとして,目撃証言や上記の推定を満たすような津波の振幅や周期がどの程度のものかを調べるため,2010年から2011年に高知県の須崎湾で潮位観測を行った.周期に関しては30分~40分の他に50分,80分という長い周期も観測された.これらの周期は,荒天下における波浪によっても,好天においても,また2011年東北地方太平洋沖地震津波においても観測された.おそらく須崎湾と土佐湾に固有な周期と思われる.振幅に関しては,室戸岬沖の水深約2300mに設置されていた海洋研究開発機構(JAMSTEC)による津波波形および室戸岬西方沖13kmで観測されたGPS津波波形(科研費基盤研究s1221)と比較した結果,津波振幅は前者で最大20倍,後者で最大8倍程度増幅されることがわかった.20倍の増幅なら10cm ~15cm の,8倍なら25cm~38cm程度の津波振幅を起こすような海底地殻変動があれば,須崎湾で2m~3mの海水位変化が発生しうる事がわかっている(梅田・板場,2012秋季地震学会,D12-02).3. 本震前の海水位変化の推定 海水位観測から得られた振幅と周期に関する結果を,証言から推定される海水位変化に適用し,各港湾で起きていたと思われる本震前の海水位変化を推定する.推定海水位変化f(t)は,地殻変動が無く,従って津波も発生しなかった場合の海水位変化(Ft(t))と長期的な地殻変動(Fl(t))及び証言に基づく変化(Fo(t))の和,すなわち,f(t)=Ft(t) + Fl(t) + Fo(t)とする.(Ft(t))には海上保安庁海洋情報部の潮汐推算(天文潮位)を採用した.長期の地殻変動(Fl(t))は梅田・板場(2013*)によるFl(t)= a・ln(t) + D0 を採用し,a,D0 は各地で得られている値を用いた.証言に基づく変化は,本震に近づくにしたがって,変化の周期が短くなり,振幅は大きくなるという点を考慮して,Fo(t)= A・B(t)m [cos{ω・ln(t-tc)+φ}]と仮定した.ωは振動数,φは位相差である.Aは各港湾による津波波高の比を表す.各港湾で観測された2011年東北地方太平洋沖地震津波の最大振幅の比率であるが,ここでは須崎を基準(A=1.0)とした各地の振幅比を採用している.高知県須崎湾と室戸岬の推定海水位変化を天文潮位と共に図示した.須崎湾など本震前に隆起域と推定された港湾での推定海水位変化は,証言をおおむね満たしている. 一方,本震までは沈降(相対的に海水位が上昇)していたと推定される室戸岬では,潮の狂いなどは説明できるものの,海水位の低下は説明できなかった.地殻変動(Fl(t))は長期的な変動しか考慮していないが,前節で述べた小規模な津波を引き起こすような本震直前の地殻変動(10㎝~15㎝)を考慮すれば,室戸岬での証言による海水位低下は幾分説明できる可能性はある.* 梅田康弘・板場智史,2013,1946年南海地震前の四国太平洋沿岸の上下変動曲線,地質調査研究報告,第64巻,p201-211, https://www.gsj.jp/data/bulletin/64_07_02.pdf