日本地球惑星科学連合2014年大会

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ポスター発表

セッション記号 S (固体地球科学) » S-SS 地震学

[S-SS26_30PO1] 地殻構造

2014年4月30日(水) 18:15 〜 19:30 3階ポスター会場 (3F)

コンビーナ:*仲西 理子(海洋研究開発機構 地球内部ダイナミクス領域)

18:15 〜 19:30

[SSS26-P09] DONETデータを用いた南海トラフ近傍の詳細地震波速度構造

*中野 優1中村 武史1利根川 貴志1金田 義行1 (1.海洋研究開発機構)

キーワード:南海トラフ, 海底地震観測

南海トラフでは近い将来東南海・南海地震の発生が懸念されている。海洋研究開発機構では、その震源域の直上である熊野灘において、地震・津波検知能力の向上および早期検知を目的として、地震・津波観測監視システム(DONET)の構築を行なった。DONETの全観測点が設置されてから2年以上が経過し、地震記録も数多く蓄積された。これまでの解析で熊野灘直下における詳細な地震活動が明らかになり、2004年の地震(MJMA=7.1, 7.4, 6.5)の余震によく対応する領域に地震が分布していることが分かった。地震活動は現在ほぼ定常的である。また、地震の分布はフィリピン海プレート上面に形成した古銭洲海嶺との対応も指摘されている(Nakano et al., 2014, MGR)。地震のメカニズム解析は、P軸が南海トラフの収束方向と直交することを示しており、この地域のテクトニクスについて詳しい調査が必要であると考えられる。そこで本研究では、その第一歩として地震波速度構造について詳しく調べる。

対象とする領域では反射法による構造探査が繰り返し行われており、P波速度構造は詳しく調べられているが、S波速度構造については不確定なところが大きい。したがって本研究では、以下に述べるようにS波速度を仮定した一次元構造からスタートし、走時データをよく説明するよう構造を順次更新、最終的に三次元構造を推定した。
1. 一次元構造を仮定し、観測網下の平均的なVp, Vs構造を推定
1.1. 構造探査によるP波速度構造をもとに一次元速度構造を作成、各層のVp/Vs比は海洋堆積物等の影響を考慮し適当に仮定する。このモデルを用いて震源決定を行う。
1.2. 得られた震源を初期震源として tomoDD(Zhang and Thurber, 2003, BSSA)によってトモグラフィーを行い、三次元構造を求める。
1.3. トモグラフィーで得られた速度を深さごとに平均し、各layerの地震波速度を更新する。
1.4. 更新した一次元速度構造を用いて震源を再決定する。1.2~1.4を構造が収束するまで繰り返す。
2. 三次元モデルを用いた速度構造の構築
2.1. 東海・東南海・南海地震の連動性評価研究プロジェクト(中村ほか, 2011, JpGU)で推定された構造を基に、沈み込むプレートや海洋堆積盆に対応した三次元速度構造を構築する。P波速度構造は1.のプロセスで得られた値を用いる。
2.2. 各層のVp/Vs比、すなわちS波速度構造を変化させて震源決定を行い、走時残差が最小となる構造を求める。
2.3. 残差の最も小さくなる速度構造に対し、サイト補正量を推定する。
3. トモグラフィーによって三次元速度構造を推定する
3.1. 2.で得られた速度構造、震源分布を初期値とし、tomoDDを用いて詳細な三次元速度構造を推定する。この時、2.3.で求めたサイト補正を考慮して解析を行う。

得られた結果は、トラフ軸に平行な方向における地震波速度異常と地震活動の対応を示している。すなわち、海洋地殻では、地震の分布は低速度異常に対応する一方、上部マントルでは高速度異常と対応している。これらの特徴は2004年の地震の震源断層をはじめとする弱構造の形成や、フィリピン海プレート内の応力場を考察するために役立つと考えられる。一方、本研究では熊野灘下で起きた地震のみを用いたため、地震の分布が観測点の南東に偏っておりトモグラフィーの分解能は必ずしも良いとは言えない。また、得られた速度異常の分布は初期モデルにも依存する可能性がある。分解能と復元能に関する詳しい検討及び、内陸で起きた地震も用いた広域的なトモグラフィーを今後行っていく予定である。