日本地球惑星科学連合2014年大会

講演情報

口頭発表

セッション記号 S (固体地球科学) » S-SS 地震学

[S-SS27_29AM1] 地震波伝播:理論と応用

2014年4月29日(火) 09:00 〜 10:45 411 (4F)

コンビーナ:*齊藤 竜彦(独立行政法人 防災科学技術研究所)、中原 恒(東北大学大学院理学研究科地球物理学専攻固体地球物理学講座)、松島 潤(東京大学大学院)、西田 究(東京大学地震研究所)、白石 和也(株式会社地球科学総合研究所)、座長:行竹 洋平(神奈川県温泉地学研究所)、白石 和也(株式会社地球科学総合研究所)

10:30 〜 10:45

[SSS27-P01_PG] 震源振動の非線形放射と地震予知

ポスター講演3分口頭発表枠

*菊池 年晃1 (1.防衛大学)

キーワード:震源振動, 動的モデル, タイムリバーサル, 地震予知

活断層や地殻の歪みに関する多くの報告がなされている。これらの静的な知見も必要であるが、近い将来の地震の予知には活断層の動態を知ることが重要である。
地震波エネルギーの大部分はS波に含まれているが、S波の振動は地表近くの地殻構造や断層等により大きく影響を受ける。そこで震源の動的な基本的振動を把握するために、それらの影響の少ないP波に着目する。観測点で得られたP波から震源の振動を求めるために、タイムリバーサル法を用いる。タイムリバーサルは、始めに光学の分野で位相共役波として研究された。その後、各分野に波及すると共に時間領域での位相共役波、即ちタイムリバーサルとして発展している。
 観測点で受波した地震波の中からP波成分を切り出して、その波を時間的に反転させる。その反転させた信号をシミュレーション上で放射して、震源位置に形成される波、即ちタイムリバーサルパルス(TRP)を求める。これが等価的な震源の動的な振動に相当する。
富士山付近で発生した地震に着目して、それらの震源の動的な振動を求める。始めに、2009年8月に駿河湾の中部で発生した地震に対して、震源を囲む44ヶ所の観測点で受信したP波信号にタイムリバーサル処理を施し、震源の位置に形成されるパルス、即ち、タイムリバーサルパルスを求めた。このTRPは震源が放射する等価的な音源に相当する。一般に、雑音はランダムな振動であるから干渉性を持たない。そのため指向性もない。しかしながら、求められたTRPには明確な方位依存性が存在した。この方位依存性の成因を解明するために、方位に対するTRPの周波数スペクトルを求めた。周波数スペクトルは方位角によって大きく変化した。そこで、方位角に対する最大振幅周波数の分布を求めた。その結果、方位が西から東に移動するにつれて最大振幅周波数が大きく上昇して、そして下降した。音源の周波数変動は音源の移動によるドップラー効果が一般的である。しかしながら、上記地震の場合、震源と観測点の相対位置は大きく変化していないのでドップラー効果ではない。この場合の周波数上昇は音源が局所的に高速で移動しためであると考えられる。移動方向は西伊豆西、河津及び伊東方向へ集中した。
これらの観測点で受信したP波を調べると特徴ある波形が表れた。西伊豆西の受信波の先頭部が膨張していた。しかし、西伊豆西に近い伊東と河津での受信波は通常の波形であった。この様に頭部が大きくなることは活断層中での亀裂の進行速度が伝搬速度に近くなった場合に発生する。亀裂によって発生した圧力が高速で移動することにより累積的に加算される、即ち、パラメトリック効果によって生じると考えられる。西伊豆西はこの地震の特性を反映する特定点である。この観測点で受波した余震の波形は、本震以上にP波の先頭部が膨張していた。これは亀裂が断層全般に拡大したためと考えられる。一方、本震以前に発生した前兆地震でも先頭部の膨張が多く観測された。これらの結果から震源振動の動的モデルを提唱した。活断層から放射された狭角のビームが地表に達する点をパラメトリックスポット、ここで観測される頭部の増大したパルスの頭部をパラメトリックヘッドと呼ぶ。
このモデルを、2009年から2012年の間に富士山付近で発生したM5以上の4つの地震について検証する。発生日と震源は、S1): 2009/8/11駿河湾中部、S2):2011/3/15富士裾野 、S3):2011/8/1駿河湾南部、 S4)2012/1/28山梨県東部である。 各地震に対して、周辺に配置されている観測点で受信した信号に、タイムリバーサル処理を施した。それらのTRPと周波数スペクトルの最大振幅周波数を求めた。その結果から、震源振動の移動方向を求め、その方向の観測点の受波波形を調べて、パラメトリックスポット(PS)を求めた。全ての地震に対してパラメトリックスポットが確認できた。各地震のパラメトリックスポットは、S1):西伊豆西、S2):西野原、S3):真鶴、S4:駒ヶ根であった。
動的モデルは上記のように、前兆、本震及び余震に関して一貫して成立する。従って、その特性を地震予知に利用することが出来る。2009年8月に駿河湾の中部で発生した本震より前の、2008/1/26から2009/8/11までに、同じ震源域で発生したM2以上の地震は17回である。その中でパラメトリックヘッドを伴った波形は7回観測された。これらは活断層中を亀裂が高速で移動し始めた前兆を示している。従って、各活断層に固有のパラメトリックスポットで、M2程度の微弱な段階の地震波を観測して、その変化を調べることは、その後の大きな地震を予知することができると考えられる。
本報告では、防災科学技術研究所のHi-netによる地震テータを使用しました。ここに謝意を表します。