日本地球惑星科学連合2014年大会

講演情報

口頭発表

セッション記号 S (固体地球科学) » S-SS 地震学

[S-SS29_28PM1] 地震発生の物理・震源過程

2014年4月28日(月) 14:15 〜 16:00 416 (4F)

コンビーナ:*加瀬 祐子(産業技術総合研究所 活断層・地震研究センター)、座長:内出 崇彦(産業技術総合研究所 活断層・地震研究センター)、加藤 愛太郎(東京大学地震研究所)

14:45 〜 15:00

[SSS29-03] 東北沖繰り返し地震発生領域を対象とした地震波エネルギー推定

*荒 諒理1井出 哲1内田 直希2 (1.東京大学地球惑星科学専攻、2.東北大学理学研究科)

プレート境界では、ほぼ一定速度でゆっくりとしたすべりが進行しており、その境界の時間変化しにくい特徴的な構造によって周りのすべりから遅れる場所、「固着域」がうまれると考えられている。固着域が周りのすべりに追いつくために定期的に破壊することで繰り返し地震が発生する。繰り返し地震の周囲では応力が局所的に大きく変化する。この変化は繰り返し地震の地震波エネルギーの空間的、時間的な変化に影響するだろう。本研究は東北沖で起きる多数の中小規模の繰り返し地震の地震波エネルギーを推定し、その周囲の応力変化や特徴的な構造を理解するための手がかりを得ようとするものである。 地震波エネルギーは地震時の断層の運動によって放射されるので、地震の規模についての動的な指標となる。それに対し、地震前と地震後の状態のみで決まる地震モーメントは地震の規模についての静的な指標である。地震モーメントは地震波スペクトルの低周波部分のみから求められるため推定精度が高いが、地震波エネルギーはスペクトル全体を考慮しなければならず、途中経路や観測点近傍における減衰・増幅効果の影響を補正しなければならないので推定誤差が大きい。また、地震波エネルギーの規模依存性について、現在の地震学において統一した見解は得られていない。特にscaled energy(地震波エネルギーと地震モーメントの比)が地震の規模(地震モーメント)に依存するか否かという問題が明らかでない。したがって、地震波エネルギーの放出様式の空間分布や時間変化などを議論するには、様々な規模の地震について、できるだけ正確に地震波エネルギーを推定する必要がある。 地震波エネルギーを推定する際には上で述べた途中経路や観測点近傍の影響を除く必要があるが、本研究では経験的グリーン関数(EGF)法を用いることでこの問題を回避する。EGF法では、同じ震源を持つ複数の地震の同じ観測点における地震波間でスペクトルの比をとる。これにより共通の途中経路や観測点近傍の影響を取り除いて、震源での地震波スペクトル比を得ることができる。本発表ではBaltay et al.(2010)のコーダ波を用いたEGF法をもとに、コーナー周波数の不確定性やノイズの影響について、より厳密に検討する手法を開発した。 この手法を、東北沖の複数の繰り返し地震発生領域に適用した。Mw2-6程度の地震に対して防災科学技術研究所Hi-netの速度波形水平2成分のSコーダ波のエンベロープからスペクトル比を求めることにより地震波エネルギーを推定した。地震波エネルギーの規模依存性を調べたところ、scaled energyがM0に対しておおよそ一定か、小さな正の依存性を持つという結果を得た。ただし、地震波エネルギーの推定値、および規模依存性は仮定する震源スペクトルのモデル(オメガ2乗モデルなど)に依存する。より適切な震源スペクトルのモデルを用いる必要があり、まだ検討の余地が残されている。