日本地球惑星科学連合2014年大会

講演情報

口頭発表

セッション記号 S (固体地球科学) » S-SS 地震学

[S-SS30_29PM1] 海溝型巨大地震の新しい描像

2014年4月29日(火) 14:15 〜 16:00 メインホール (1F)

コンビーナ:*金川 久一(千葉大学大学院理学研究科)、古村 孝志(東京大学大学院情報学環総合防災情報研究センター)、小平 秀一(海洋研究開発機構 地球内部ダイナミクス領域)、宍倉 正展(産業技術総合研究所 活断層・地震研究センター)、座長:金川 久一(千葉大学大学院理学研究科)

15:15 〜 15:30

[SSS30-28] スメクタイト及びイライトの摩擦挙動の温度効果:沈み込み帯での地震発生帯の上限としての可能性

*久保 達郎1片山 郁夫1 (1.広島大学地球惑星システム学)

キーワード:地震発生帯の上限, スメクタイトーイライト相転移, 温度効果, 速度依存性

[はじめに] 浅部の非地震発生領域と地震発生帯との境界は地震発生上限(updip limit)と呼ばれ、津波発生に関わるなど, 何がこの上限を決定しているかは防災の観点などから大変重要である。沈み込み帯における地震発生領域の上限領域は主に温度に強く依存し, 150℃で起こるとされている。地震発生上限を決めている要因は諸説あるが, その中の一つにスメクタイト-イライト相転移による摩擦特性の違いによるという仮説がある。一方で, Saffer and Marone(2003)ではスメクタイト, イライトの速度依存性の詳細な実験が行われ, スメクタイト, イライトともに安定すべりをすることからスメクタイト-イライト相転移が沈み込み帯における地震発生上限となり得ないと報告した。しかし, Saffer and Maron(2003)の実験はすべて室温で行われたもので, 天然の温度環境を再現しながらの実験がなされていないという問題点がある。そこで今回, 広島大学理学部にある高温二軸摩擦試験機を用いて高温でのスメクタイトとイライトの摩擦挙動を調べ, スメクタイト-イライト相転移が地震発生上限になりうるかどうかの議論を行うことを目的とした。[実験手法] 高温二軸摩擦試験機を用いて, 粉末状の擬似断層物質を二つのガブロブロックの間にはさみ摩擦実験を行うdouble-direct shearといわれる手法をとった。垂直応力は油圧式手押しポンプで制御しながら加重をかけていき, 鉛直方向(剪断方向)の加重はモーターとギアシステムを用いており, ギアシステムにより様々な速度比で減速された回転運動を, ボールネジを用いて鉛直方向の往復運動に変換することで載荷した。摩擦特性の地震性か非地震性の評価は, 速度依存性の式によって行った。速度依存性は次式で与えられ:(a-b)=dμ/(d lnV ) (ただし, a,b は摩擦パラメータ, Vは滑り速度)この, a-bが正を示せば地震性, 負を示せば非地震性となることが知られており, 地震性か非地震性かを知る上で重要なパラメータとなっている。摩擦強度と速度依存性を算出し, 高温下でスメクタイト及びイライトが安定すべりをするか, 不安定すべりをするかの評価を行った。[結果, 考察] 摩擦係数は室温で行われた先行研究と同様にスメクタイトはイライトよりも低くなる傾向が見られた。温度を上げるとスメクタイトとイライトの摩擦強度の差はわずかになるが, 垂直応力が60MPaの条件下では約2倍の差があり, スメクタイトはイライトに比べ歪みエネルギーを溜めにくい特性を持っていると言える。また, 速度依存性については, 温度の上昇により変化せず, 垂直応力が40MPa以上の条件下では, すべり強化(a-b>0)の非地震性の摩擦挙動を示した。これらのことから, スメクタイトは天然の沈み込み帯における温度・圧力条件下においても非地震性の安定すべりをしていると期待される。一方で, イライトはスメクタイトに比べ大きな摩擦係数の値を示した。このことに加え, 温度環境が200℃, 垂直応力が40MPa以上の条件下ですべり弱化(地震性)の摩擦挙動を示した。温度効果によって, 天然の沈み込み帯における温度・圧力下で, 地震性の不安定すべりをしている可能性があると考えられる。 Saffer and Marone(2003)の先行研究において, 室温の温度環境下でイライトがすべり強化(安定すべり)したために, スメクタイト-イライト相転移による鉱物の変化が摩擦特性の変化と結びつかず, 地震発生上限になり得ないと報告をした。しかし, 本研究において温度を上昇させ天然の地震発生上限域の温度環境下に近い条件ではイライトがすべり弱化を示したことで, スメクタイト-イライト相転移が, 充分に非地震性-地震性の変化を支配している可能性が有力であると言える。