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[SSS31-02] 稠密地震観測による奥羽脊梁山脈の地震波速度構造 -断層破壊の地殻構造的な規制要因-
キーワード:奥羽脊梁山脈, 地震波速度構造, 破壊停止, 微小地震観測, 走時トモグラフィ
背景と目的 奥羽脊梁山脈は東北日本弧の中軸をなす東西圧縮の歪み集中帯であり,我が国でも有数の逆断層型地震の多発地帯である。1896年陸羽地震(M7.2)や2008年岩手宮城内陸地震(M7.2)など,最近100年余りでも,被害地震が数多く発生している。横手盆地東縁断層帯で発生した1896年陸羽地震では,断層帯北部のみに地表地震断層を生じた。本研究の目的は,逆断層帯の破壊に関わる地殻構造的な規制要因を見出すことである。本発表では,奥羽脊梁山脈における稠密微小地震観測に基づく地震波トモグラフィ解析から,速度構造と既往の被害地震の破壊域端部との関係を検討する。稠密微小地震観測 稠密微小地震観測は,2012年11月から2013年11月までの約1年間,北上低地と横手盆地に挟まれた東西約40km,秋田県仙北市から宮城県栗原市にわたる南北約100kmの範囲で実施した。定常観測点の疎な領域を中心に30か所の臨時観測点を配置し,全体として約10km間隔で対象地域をカバーするようにした。各観測点には,クローバテック製 DAT-4レコーダーとLennartz製LE-3Dlite地震計の組み合わせ(計20点),もしくは近計システム製EDR-X7000レコーダーとKVS-300地震計の組み合わせ(計10点)のいずれかを設置した。3成分,250Hzサンプリングで連続収録を行い,前者は約2ヵ月間毎,後者は約6ヵ月間毎にデータ回収とバッテリ交換を行った。積雪期には,前者のうち約半数がアクセス不通に伴う約3ヶ月間の欠測がある。走時データ 観測期間中,奥羽脊梁山脈周辺で発生した2700個余りの地震について,気象庁一元化震源カタログに基づいて,各地点の収録データからイベント波形を編集した。地震毎の統合波形データに対して,winシステム(卜部・束田,1991)を用いて,暫定的にP波とS波到着時刻の自動検測を行った。この検測データに同一イベントに対する気象庁一元化観測点の検測値を統合して,トモグラフィ解析用の絶対走時データとした。 また,より広域的に波線カバレッジを高めるため,観測期間外の定常観測網データも用いた。2004年~2011年に東経140度~141.5度,北緯38.5度~40度,深さ0~180kmに発生したM1以上の地震のうち,水平方向0.05度,深さ方向1kmの領域毎に最も多くの観測点で検測値が得られている地震2259個を抽出した。トモグラフィ解析の暫定結果 上記で得られた絶対走時を統合して,tomoDD(Zhang and Thurber, 2003)によりトモグラフィ解析を行った。解析対象(暫定)は,焼石岳北方を中心にした南北160km×東西128km,深さ0~180kmの範囲である。グリッド間隔は,水平方向8km,深さ方向5kmである。20回程度のイタレーションにより,以下の暫定結果が得られた。 岩手宮城内陸地震の震源域北端部は,地殻内地震の地震発生層(深さ5~10km付近)における北西‐南東方向の速度急変部に対応している。震源域側では高Vpであるのに対し,その北側では低Vpである。北上低地西縁断層帯はこの速度急変部の北側に分布している。この速度境界部は,重力異常の急変(北東側が低,南西側が高)とも調和的である。 この北西‐南東方向の速度急変部は秋田県側まで連続して認められる。その位置は,1896年陸羽地震の震源域(川舟断層,あるいは横手盆地東縁断層帯北部)の南端にもほぼ一致している。この速度急変部の地表には,衣川,成瀬川など,同方向の谷地形が発達しており,地質分布もその南北で異なる。これらのことから,この速度急変部は東北日本弧でしばしば見られる北西‐南東方向の胴切り断層を見ている可能性がある。 今後,トモグラフィ解析の分解能と地質構造を十分に精査した上で,こうした地殻構造の急変部が断層破壊の停止に関わっている可能性について検討したい。