日本地球惑星科学連合2014年大会

講演情報

口頭発表

セッション記号 S (固体地球科学) » S-SS 地震学

[S-SS31_30PM2] 内陸地震への包括的アプローチ

2014年4月30日(水) 16:15 〜 18:00 502 (5F)

コンビーナ:*重松 紀生(独立行政法人産業技術総合研究所活断層・地震研究センター)、加藤 愛太郎(東京大学地震研究所)、西村 卓也(京都大学防災研究所)、座長:松本 聡(九州大学大学院理学研究院附属地震火山観測研究センター)、東郷 徹宏(中国地震局地質研究所)

17:30 〜 17:45

[SSS31-12] 摩擦―流動構成則とその地震発生サイクルの2次元解析への応用

*嶋本 利彦1野田 博之2 (1.中国地震局地質研究所、2.海洋研究開発機構)

キーワード:摩擦ー流動構成則, 地震発生サイクルのモデリング, 断層モデル, リソスフェア・レオロジー, マイロナイト, シュードタキライト

摩擦から高温塑性変形をつなぐ構成則を確立することは、地震の発生、プレートの相互作用などをモデリングする上でも長い間大きな課題であった。摩擦法則と流動則を線形につなぐ構成則が提唱されているが、摩擦から流動への変化を再現した岩塩の実験データと全く合わない。我々は双曲線正接関数(hyperbolic tangent)を使った簡単な式で、新しいパラメタを導入することなく、摩擦から高温塑性流動への変化が記述できることを示した(Shimamoto, 2004, JpGU; Shimamoto and Noda, 2010, AGU). Noda and Shimamoto (2012, JSG)はこの式を使って断層の安定性を解析している。講演ではこの構成則の特徴と実験データの比較をし、この構成則を用いて、リソスフェアを横切る断層の地震サイクル挙動についての解析結果を報告する。また、モデリングの結果に基づいて新しい断層モデルを提唱する。主な結果は以下の通りである。(1) 摩擦―流動構成則は、岩塩剪断帯の摩擦領域、脆性―延性遷移領域、完全塑性領域の剪断変形実験結果(Kawamoto and Shimamoto, 1997, Proc. IGC Beijing)と非常によい一致を示す。全ての実験データに構成則をフィットさせて、摩擦と流動パラメタをかなりよく再現することができた。(2) 過去約30年間、リソスフェアの性質を記述するために2つの方法が使われてきた。ひとつは、摩擦強度と流動則をつないだ強度断面である(クリスマス・ツリーとも呼ばれる)。一方、地震発生のモデリングでは浅部の速度弱化が地震発生域の下部で速度強化に変わるモデルが使われてきた。前者には摩擦の速度依存が入っていないので地震発生のモデリングには使えないし、脆性―延性遷移領域の性質を記述することはできない。後者には、リソスフェア下部における流動の性質が組みこまれていない。摩擦―流動構成則は、統一した視点から両者を融合することができる。(3) 摩擦―流動構成則を用いて地震発生サイクルの解析が可能であることを2次元解析でしめした。解析には境界要素用を用いて、地震間の断層のゆっくりしたすべりと地震時の断層の動的挙動を解析している。流動則としては石英の流動則を用いた。摩擦―流動則は浅部では摩擦法則と変わらないので、地震発生時の断層の挙動はこれまでの速度依存性を変えたモデルの解析結果とよく似ている。遷移領域・流動領域の断層挙動は流動特性を反映しているので、今後地殻変動のデータとの比較が望まれる。(4) すべり速度(流動領域では歪速度)を仮定すると、摩擦―流動構成則を使って摩擦・遷移・流動領域における強度断面を描くことができる。この3分モデルを、地震発生サイクルにおける断層の挙動の全体像と対比することは可能である。しかし最大の問題は、地震発生領域においてはすべり速度が10桁以上も変わり、それに応じて強度断面のみならず、摩擦・遷移・流動領域の境界も地震サイクル中に変わってくることである。リソスフェアの強度断面は一定速度を仮定して決まるのではなく、リソスフェアを横切る断層の挙動に応じて自発的に決まることを示す。(5) モデリングの結果では、地震時の断層運動は遷移領域における速度強化の性質をもつ領域に深く及んでいる。地震の後、震源域の下部約3分の1の領域では、断層クリープが深部から浅部に向かって広がって次の地震に至る。この領域では、地震性断層運動に断層クリープが重複しておこる。遷移領域の変形組織はマイロナイトの組織によく似ている。従って、このような断層運動は、世界のかなりの場所で報告されている「マイロナイト化したシュードタキライト」の産状をよく説明する。地震発生モデリングの結果に基づいて、中央構造線のような内陸大断層の構造と断層岩を見直すと面白い。(6) 石英・長石のような重要な鉱物を用いて摩擦から流動に至る剪断変形実験をおこなうことは容易ではない。摩擦―流動構成則は摩擦と流動則パラメタがあれば両者をつなぐ性質を予測できるので、実験条件を想定する上で実用価値がある。