11:45 〜 12:00
[SSS32-09] 断層面上のナノ粒子と炭素質薄膜:沈み込みプレート境界巨大分岐断層の例
キーワード:延岡衝上断層掘削計画(NOBELL), 沈み込み帯, 付加体, 四万十帯, 断層弱化, 断層鏡面
断層面の摩擦特性は地震性滑りの挙動を左右する重要な要素である。近年では摩擦過程はスケール依存性を持つことも示唆されている[Li and Kim, 2008]。このため断層表面の様々なスケールにおける構造観察は極めて重要になる。断層面のラフネスはキロメートル?マイクロメートルのスケールでフラクタル性を持つと考えられていたが[e.g. Candela et al., 2009],例えば鏡肌を持つ断層面の例ではナノメートルスケールではフラクタル性が成立しない[Siman-Tov et al., 2013]。このような断層面では数十ナノメートルの粒子が表面を覆っており,可視光の波長以下の凹凸となるために光沢を生じると考えられている。そこで本発表では,延岡衝上断層掘削計画(NOBELL)で回収されたコア中の主断層近傍の条線のついた一断層面の表面を詳細に観察した結果を報告する。 NOBELLは2011年7?9月に宮崎県延岡市内において深度255 mまでのコアを回収した。約41 mの深度で延岡衝上断層を貫通し,コアの記載や物理検層データから上下盤の特徴的な差異が明らかになった[Hamahashi et al., in revision]。本研究では主断層直下の条線が発達し光沢を持つ断層面の表面を,走査型レーザー顕微鏡・走査型プローブ顕微鏡の複合機(SHIMADZU SFT-3500)を用いて観察した。また同試料表面をラマン分光法によって分析した。プローブ顕微鏡像では断層表面に直径が数十ナノメートルの粒子状物質が観察された。この表面は10マイクロメートル四方の撮影領域でわずか80ナノメートルの起伏しかない極めて平滑な面であった。レーザー顕微鏡のXZ計測から表面下約1マイクロメートル付近に界面が観察され,また暗色部の縁部に干渉縞が観察された。これらのことから暗色部は約1マイクロメートル程度の薄膜様物質に覆われていることが示唆される。ラマン分光分析の結果より非晶質炭素の存在が示唆され,断層表面から得た粉末試料の有機元素分析によっても炭素の存在が確かめられた。オージェ電子分光法による分析によって最表面への炭素の濃集が確認された。 以上の結果から,本試料は断層面の摩擦過程の進行により表面がサブマイクロメートルスケールまで平滑に琢磨され,その表面を炭素質薄膜物質が覆っている構造を取っていると考えられる。断層面の形状や表面のナノスケール微細構造,化学組成を詳細に明らかにすることで,断層の動的弱化過程の理解を深めることに貢献できる。