日本地球惑星科学連合2014年大会

講演情報

口頭発表

セッション記号 S (固体地球科学) » S-SS 地震学

[S-SS32_1AM2] 断層帯のレオロジーと地震の発生過程

2014年5月1日(木) 11:00 〜 12:45 315 (3F)

コンビーナ:*大橋 聖和(千葉大学大学院理学研究科)、飯沼 卓史(東北大学災害科学国際研究所)、谷川 亘(独立行政法人海洋研究開発機構高知コア研究所)、三井 雄太(静岡大学大学院理学研究科地球科学専攻)、座長:三井 雄太(静岡大学大学院理学研究科地球科学専攻)、谷川 亘(独立行政法人海洋研究開発機構高知コア研究所)

12:15 〜 12:30

[SSS32-11] 炭質物断層温度計の可能性-1:反射率

岡本 汐理1、*星野 健一2 (1.広島大学理学部、2.広島大学理学研究科)

キーワード:炭質物, 温度計, 断層, 反射率

炭質物の熟成(石炭化)のカイネティクスはBurnhamらの一連の研究で詳細に解析されている(例えば,Braun and Burnham,1987)。Burnham and Sweeney(1989)とSweeney and Burnham(1990)は,石炭化の脱水・脱ガス反応の速度則に活性化エネルギー分布モデルを導入し,この速度則から導いた反応進行度(F)と炭質物の油浸反射率(%Ro,パーセント表記)との相関を示した。彼らはまた,この速度則が実験(1C/週),火成岩の貫入(1C/日),地熱系(10C/百年)および埋没続成作用(1C/千万年)の昇温率に適用出来ると述べている。一方で,Huang(1996)は,炭質物の%Roは数日-数十日間の加熱実験でも上昇することを示し,実験結果からt(秒)のべき数が0.078であるべき速度則を導いた。また,Muirhead et al.(2012)は,熱分解装置によるマーチソン隕石中の炭質物の数秒-数十秒間の加熱によるラマンスペクトルのR1の変化から,tのべき数が温度に依存するべき速度則を提唱した。しかしながら,これらのべき速度則は,岩石や隕石から抽出した裸の炭質物の加熱実験に基づいている。筆者らの加熱実験によれば,加熱後の岩石の表面にある炭質物のR1と岩石中の炭質物のR1の変化は著しく異なることが明らかとなったため(詳細は次講演の-2),上記のべき速度則は地質試料の温度履歴解析には適用出来ないであろう。そこで筆者らは次の実験を行ない,炭質物による断層温度計の可能性を検討した。四万十帯から採取した泥岩の岩片をアルゴン雰囲気のカプセルに入れ,300,350,450,550,600及び700℃で,2,5,13および34分間,加熱炉で加熱した。使用した加熱炉は,設定温度に上昇するまで10分程度かかり,また室温までの冷却に数分かかるため,これらの加熱時間は,上記温度の継続時間を示している。これらの加熱試料の表面を削り取った後に研磨した岩片を用いて,反射率および次講演(-2)のラマンスペクトルの測定を行なった。空気中での反射率(Ra,非パーセント表記)は,反射顕微鏡像のRGB解析によるGの階調を標準試料(SiC,GGG,YAGなど)の階調と比較する事により求めた。加熱前の2つの岩片中の炭質物のRaの平均は0.093と0.106で,前者の%Roは1.99であった。上記のSweeney and Burnham(1990)の相関によれば,これに対応するFは0.618である。450℃以下の加熱試料では,Raはほとんど変化しない。この結果は,300℃,350℃および450℃で34分間の加熱T-t経路に沿ってシミュレートしたFがそれぞれ0.618,0.618および0.622であり,ほとんど進行しないことと調和的である。一方で,550℃,600℃および750℃で34分間加熱した試料のRaは,それぞれ0.121,0.127および0.151と上昇した。これらのT-t経路から求めたFは,それぞれ0.742,0.811および0.850である。また,750℃の2,5および13分間の加熱試料のRaは,それぞれ0.147,0.150および0.150で,上記の同温での34分間の加熱後のRaとほとんど変わらない。このことはまた,これら750℃の加熱T-t経路から求めた全てのFが0.850であり,彼らの速度則の上限の反応進行度であることと調和的である。様々な熟成度のCMを含む岩石のさらなる加熱実験が必要であるが,上記の結果は,炭質物の熟成度に基づく地震温度計の高い可能性を示している。本加熱実験による炭質物の熟成のラマン分光分析結果については,次講演(-2)で報告する。