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[SSS32-12] 炭質物断層温度計の可能性-2:ラマンスペクトル
キーワード:炭質物, 温度計, 断層, ラマンスペクトル
炭質物のラマンスペクトルから得られるいくつかのパラメータは,地質温度計として広く使われてきた(例えば,Beyssac et al.,2002)。一方で,Huang(1996)とMuirhead et al.(2012)は,岩石から抽出した炭質物の加熱実験から,それぞれ炭質物の熱熟成度を示す油浸反射率とラマンスペクトルのR1比の変化について,加熱温度・時間に関するべき速度則を提唱している。そこで本研究では,ラマンスペクトルにより示される炭質物の熱熟成度に基づく断層温度計の可能性を探るため,ビトリナイト反射率の測定により続成温度が180℃と見積もられている四万十帯安芸層群(北村ほか,2014)から採取した泥岩試料の加熱実験を行なった。試料は,300,350,450,550,600および700℃で,それぞれ2,5,13および34分間加熱した(詳細は前講の-1参照)。加熱試料の表面の炭質物と試料内部の炭質物のラマンスペクトルの対比から,前者の熟成は後者より早く進行していることが確認された。したがって,炭質物の熟成度を断層温度計として用いるためには,試料内部の炭質物を分析しなければならない。ところで,最高温度・最長時間の加熱後の炭質物のmicro-XRD分析では,石墨のピークが確認されなかった。したがって,本加熱実験による炭質物の変化は,石墨化ではなく石炭化であると考えられる。炭質物のラマンスペクトルには,いわゆるGとDの二つのバンドのピークが現れる。加熱試料のラマン分光分析から,これらのバンドから得られるいくつかのインデックスが,低温(300-450℃)の加熱実験後でも顕著な変化を示すことが認められた。一方で,これらの試料中の炭質物の反射率は,加熱前とほぼ同様で変化はみられない(前講演の-1参照)。GバンドとDバンドのピーク位置は,すべての実験温度において,加熱時間が長くなるにつれ,より高波数側にシフトする。しかしながら,これらの位置は温度の上昇に伴い単調にシフトはせず,450℃までは高波数側にシフトし,550℃で低波数側に,更に高温では再び高波数側にシフトする。両バンドのピーク位置の波数差も,加熱温度・時間に対応して変化する。最長時間(34分)の加熱試料では,この差は高温ほど小さくなるが,同様の傾向は他の加熱時間の試料では認められない。Gバンドのピークの強度と半値幅の比(Gif)とDバンドのピークのそれ(Dif)はそれぞれ,300℃-450℃までと550℃-750℃の間では高温ほど減少する傾向を示すが,450℃-550℃間では増加する。以上述べたように,加熱温度と時間に対応して単調に変化するインデックスは未だ見出されていないが,これらのインデックスの加熱温度・時間に対する敏感さは,スペクトルにより示される炭質物の熱熟成度が断層温度計として利用できる可能性を充分に示していると思われる。また,上記のインデックス変化の粒径依存性や,粗粒な炭質物のリムと細粒な炭質物の類似性は,粒径に依存する温度計,即ち,加熱温度と時間を同時に推定出来る温度-時間計の可能性も示している。