日本地球惑星科学連合2014年大会

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口頭発表

セッション記号 S (固体地球科学) » S-SS 地震学

[S-SS32_1PM1] 断層帯のレオロジーと地震の発生過程

2014年5月1日(木) 14:15 〜 16:00 315 (3F)

コンビーナ:*大橋 聖和(千葉大学大学院理学研究科)、飯沼 卓史(東北大学災害科学国際研究所)、谷川 亘(独立行政法人海洋研究開発機構高知コア研究所)、三井 雄太(静岡大学大学院理学研究科地球科学専攻)、座長:飯沼 卓史(東北大学災害科学国際研究所)

14:30 〜 14:45

[SSS32-14] オリビンの衝撃圧縮実験 -その3:摩擦溶融に先んじて粉砕が起こった!

*小畑 正明1真下 茂2陳 黎亮2安東 淳一3山本 貴史3上田 匡将1 (1.京都大学大学院理学研究科、2.熊本大学パルスパワー科学研究所、3.広島大学大学院理学研究科)

キーワード:衝撃圧縮実験, かんらん石, 摩擦溶融, 粉砕, 断層, 地震

地震波は地下深部で発生した破断面(shear fracture, 断層)の急速拡大先端部付近での急速な剪断応力低下と急速滑りによって発生する。先端部での急速な滑り弱化は物質のいかなる状態変化に対応するのかということは地震学の物質科学的な側面として重要な研究課題である。この滑り弱化についてはこれまで,(1) frictional melting and lubrication, (2) thermal pressurization, (3) flash heating and melting, (4) powder lubrication,及びそれらの組み合わせが提案されてきた。これまで断層の剪断摩擦特性の実験的研究は高速回転摩擦試験器を用いた研究が主流であったが,この方法では,「断層面」はあらかじめ用意されているので,破断面の形成過程 (shear fracturing)そのものは再現され得ない。またサンプルにかけられる封圧が高々数十MPに限られるという技術的制約もあった。 これを補完する方法として,我々は,特に中~深部地震を念頭において,衝撃圧縮により,サンプルに瞬間的に一軸圧縮をかけることで剪断面をあらたに作り出しサンプルを回収して微細構造を観察するという実験を行ってきた。用いた装置は熊本大学衝撃・極限環境研究センターの一段式火薬銃である。この装置では飛翔体の素材とサイズ,飛翔体のスピード(1~2km/s)をコントロールすることで鉄カプセルに封入したサンプルに瞬間的に10~30GPaの高圧をかけることが可能である。実験には天然のオリビン単結晶(Fo94)を用いた。本実験の衝突時の衝撃波速度は約7km/s,粒子速度は約1km/s,圧縮時間は 0.5マイクロ秒程度である。なおこの圧力範囲では断熱圧縮による温度上昇は限られており(せいぜい数百度),断熱圧縮のみによってはオリビンの溶融は起こらない。圧縮実験後回収したサンプルの微細構造を光学顕微鏡,SEM, TEMによって観察したところ衝突方向に斜交してかんらん石結晶内に多数の剪断面が発達していることが認められた。圧縮を受けたオリビンには広域的に波動消光が発達すると共に局所的に粉砕が顕著である。破砕粒子は鋭角的で角張っており粒子同士は大きくはずれていないことから破砕箇所では顕著な剪断運動は起こっていないと判断できる。これに対して,マクロな剪断面(断層面)はシャープで最大0.5 mmの滑り変位が認められる。剪断面の壁にも亀裂は発達しているが,それに加えて局所的に多数の粒子からなるスポンジ状の物質が付着しているところが見つかった。このスポンジ状部分を, FIBで切り出しTEM観察を行ったところ,断層面壁は次のような累帯構造をしていることが確認出来た。一番内側のオリビン単結晶部は[001]らせん転位が密に発達し,複雑に絡み合った構造をいている。この転位構造が上記波動消光の原因となっていると考えられる。断層面から内側の2~5ミクロン幅のゾーンでは細粒多結晶化しており(粒子サイズ200-300 nm),最外縁部2ミクロン幅ゾーンで数百ナノメータのやや丸みを帯びたオリビン粒子が多数発達し,粒間をオリビン組成のガラスが充填している。また細粒オリビンの縁がガラス化に伴って大きく内側に湾曲している場所も確認できる。これらガラスの存在は,オリビンが部分的にかつ局所的に溶融したこと示す。これらのオリビン微粒子にも単結晶部,多結晶部で見られたと同種の転位構造が残っていることから,このオリビン微粒子はメルトから晶出したものではないと結論できる。多結晶部と溶融部が断層面に沿っていることから多結晶化と溶融が剪断運動によって出来たことは間違いないが,ここで重要なことは溶融に先立って転位構造の発達と破砕が起こったことである。しかもこれらの全プロセスは時間にして0.5マイクロ秒という極超短時間に起こったことである。これらの現象は衝突によって発生した衝撃波がサンプルを通過に伴って形成していった剪断面(最前線)先端部付近で起こった現象と考えられ,ここにReches and Dewers (2005)の考察と計算結果が適用できると我々は考える。 本実験では剪断面形成が衝撃波通過によるものであるという点で天然の地震の状況とは異なるが,その他の状況は相似的であると言える。この結果はシュードタキライトの形成プロセスの再考も促すものである。文献:Reches and Dewers (2005) Gouge formation by dynamic pulverization during erthquake rupture. EPSL 235, 361-374.