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[SSS32-P01] 南海トラフ巨大分岐断層の暗灰色ガウジ試料における摩擦発熱履歴の再検討
キーワード:南海トラフ地震発生帯掘削, 東南海地震, 流体岩石相互作用, 微量元素, X線回折, 赤外分光分析
南海トラフ地震発生帯掘削によって,1944年東南海地震時に活動したと推定される巨大分岐断層の試料が採取された.この試料には,局所化した剪断帯(暗灰色ガウジ)を含み,先行研究によって,そこでの高いビトリナイト反射率(390 ℃の摩擦発熱に相当)とイライト‐スメクタイト混合層におけるイライト含有量の増加が報告されている.一方で,微量元素・Sr同位体比分析では,同ガウジにおいて300 ℃を超える有意な高温異常が検出されていない.これらの先行研究間の矛盾を解決するために,本研究では,暗灰色ガウジを含む8試料において,粉末X線回折‐RockJock解析を用いた鉱物の定量分析,微量元素・Sr同位体比データにおける高温流体‐岩石相互作用のモデル計算,および炭質物の赤外分光分析を行った.その結果,暗灰色ガウジでは250 ℃を超える発熱を履歴してないことが明らかになった.さらに,スメクタイト‐イライト反応が地震時に起きえるかどうかを検証するために,速度論的解析を実施した結果,約400 ℃のピーク温度をもつ発熱パルスでは,イライト化はほとんど進行しないことが確認できた.また,ビトリナイト反射率の変化については,温度のみならず,剪断による変化も別の先行研究によって明らかにされつつある.以上,すべての情報を総合的に判断する限り,暗灰色ガウジの履歴温度は250 ℃未満であると結論づけることが妥当であろう.この250 ℃未満の発熱履歴は,0.01–1 m/sの滑り速度を仮定した場合,最大で80 mの滑り距離に相当する.更なる正確な温度の見積もりが極めて重要であるが,現時点では,100–200 ℃の温度領域における有効な温度プロキシが存在しないため,難しい.これは今後の大きな課題と言える.