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[SSS33-06] 蔵王山の火山活動に伴う地殻変動
キーワード:GPS, 傾斜変動, 火山性地殻変動, 火山活動
はじめに宮城県と山形県の県境に位置する蔵王山では,2013年1月に初めて火山性微動が観測されて以降,その後も月に1回程度の頻度で繰り返し観測されている(気象庁,2013)。蔵王山は2011年東北地方太平洋沖地震の震源域に最も近い火山でもあり,今後の活動の推移が注目される。東北大学では,蔵王山周辺の火山活動をより詳細に把握するため,2013年新たに地震計4 点,傾斜計1点,GPS連続観測5点,全磁力2点等の観測網を展開した。本報告では,これまでの観測により得られている蔵王山周辺の火山活動に伴う地殻変動について報告する。GPS連続観測網これまで,蔵王山周辺のGPS連続観測網は,国土地理院によるGEONETに加えて気象庁の坊平観測点(J310)のみであったが,2013年4月末に本学蔵王観測所に設置したのをはじめ,9月末までに白石スキー場,セントメリースキー場,宮城県営山頂レストハウス,蔵王ロープウエイ地蔵山頂駅への設置を行った。新設観測点においては,GPSアンテナは既存の建物や構造物の外壁,屋上等に固定した金属製ポールに取り付けた。データは携帯通信端末によりインターネットに接続し,毎日定時に自動で収集している(出町・他,2011)。データ解析には,GIPSY-OASIS II ver. 6.2の精密単独測位法(Precise Point Positioning, PPP)を用いた。衛星の軌道情報はITRF2008に準拠したIGS08を,中性大気中の水蒸気に対する補正にはGMF(Boehm et al., 2006)を用いた。傾斜観測蔵王山周辺では,本学蔵王火山観測所及び気象庁坊平観測点においてボアホール型傾斜計による観測が行われていたが,いずれも火口湖である御釜からそれぞれ約3 km,5 kmの距離に位置している。本学では蔵王山の火山活動活発化に対応して,超長周期地震(VLP)の震央となっている御釜の南西約500mの位置(馬の背)に深度約10mのボーリング坑を掘削し,Pinacle社の傾斜計を設置した。結果東北地方においては,2011年東北地方太平洋沖地震後の顕著な余効変動が今なお継続しており,蔵王山の火山活動に関連する地殻変動を抽出するためには,余効変動成分を除去する必要がある。余効滑りや粘性緩和などを考慮した余効変動の時間発展を精確に再現しうる物理モデルが構築されれば,それに基づいて余効変動成分を取り除くことも可能であるが,現段階ではそれ自体が重要な研究課題であることから,本研究では余効変動が広域で長期間継続していることを利用してフィルタリングによる除去を試みた。蔵王山を含む約100 km四方の範囲にあるGPS連続観測点において2013年5月から11月までの7ヶ月間のデータから得られた変位場に対して,余効変動を緯度経度の3次関数により近似して除去したところ,蔵王山周辺の観測点ではいずれも数mm程度以下の残差変位場を抽出できたが,全体的に東方向への変位が卓越する傾向が見られた。仮定した次数が不十分である可能性があり,今後さらなる検討が必要である。一方,すべり速度/状態依存摩擦法則によれば,大地震の余効滑りは時間に対する対数関数で近似できるとされている(例えばMarone et al., 1991)。PPP法による解析結果にはプレート運動による剛体回転成分も含まれることを考慮して,さらに1次関数も加えて東北地方太平洋沖地震後の各観測点の変位時系列を近似したところ,残差は非常に小さくなり観測結果をよく説明できることがわかった。残差時系列に基づいた2013年10月から12月までの蔵王山周辺の地殻変動をみると,数mm程度ではあるが山体の膨張傾向を示しているものの,まだノイズレベル以下の変動であり,今後の傾向を注意深く見ていく必要がある。傾斜計による観測データについては,一般に降雨や季節変動等の影響もあって,数ヶ月程度以上の時定数をもつわずかな現象を捉えることは困難であり,蔵王山周辺の傾斜計でも,今回の火山活動に関連すると思われる長期的変化は現在のところ見られない。一方,2013年1月以降に発生している大きめのVLPに伴った変化が傾斜計でも捉えられており,周期数秒程度の傾動変化は広帯域地震計による粒子軌跡と同様に震源方向を向いている。さらに,これらの短周期変動に先行して約5分前からramp関数的な変動が見られる場合もあり,VLPの発生機構を考える上で重要と考えられる。参考文献Boehm et al. (2006),GRL, 33, L07304, doi:10.1029/2005GL025546.出町・他 (2011),2011年JpGU大会.気象庁 (2013),http://www.seisvol.kishou.go.jp/tokyo/STOCK/kaisetsu/CCPVE/shiryo/127/127_no06_2.pdfMarone et al. (1991), JGR, 96, 8441-8452.