18:15 〜 19:30
[SSS33-P08] 体積ひずみ計の降水補正に用いる降水量の風速補正
キーワード:ひずみ計, 降水補正, 風速, 降水量の標高依存性
気象庁では東海地震の前兆すべりの監視のために東海地域等に体積ひずみ計や多成分ひずみ計を設置し、リアルタイム監視を行っている。それらのうち体積ひずみ計は特に降水の影響を受けやすいため、現在気象庁では体積ひずみ計のデータについてはタンクモデルを用いた降水補正(木村・他、投稿中)を行い監視するようにしている。地殻変動データの降水補正へのタンクモデルの適用に際し、これまで汎用的なタンクの形状は決まっていなかったが、木村・他(2011,2012)は体積ひずみ計データの24時間階差の絶対値の和を目的関数とした上で、この目的関数の値を指標としてタンクの形状を決定した。同様に木村・他(2013)は降水補正に用いる降水量データの選定に際して、レーダーアメダス解析雨量、アメダスによる降水量、ひずみ計観測点に設置した雨量計による降水量の3つについてこの目的関数の値を指標として比較を行い、妥当な結果を得た。このことは逆に言えば、体積ひずみ計のような地殻変動データは、降水量データの品質をも判断できるだけの感度を持つ可能性があるとも言える。
雨量計による観測には、強風時に雨滴の捕捉率が落ちるジェボンス効果があることが知られている。特に降水が雨よりも雪で顕著であるが、幸か不幸か気象庁の設置した体積ひずみ計は降水が雪として降りにくい東海地域や南関東地域である。横山・他(2003)は、雨量計の形状(風よけの有無等)にもよるが降水が雨の場合でも風速6m/sにおいて捕捉率が0.7~0.9に落ちることを指摘している。このような雨量計という測器そのものに起因する効果について体積ひずみ計で確かめられるのではないだろうかという視点で、体積ひずみ計の降水補正に用いる雨量計の風速補正についての調査を行った。しかし、この目論見は成功しなかった。気象庁の体積ひずみ計の降水補正パラメータ等を元に各観測点の特徴について検討したところ、その場で観測した降水量データだけで降水応答を説明できる観測点とそうではない観測点があり、後者については流域面積の大きな川の近くや大きな山の斜面に位置しており周辺部からの流入があっても不自然ではない。ジェボンス効果を確認できるとすれば、周辺部の降水の影響が少ない前者の観測点であろうと予想していたが、実際に降水補正に用いる雨量計の風速補正の効果が得られたのは予想に反して後者の観測点であった。その場で観測した降水量データだけで降水応答を説明できる観測点では大雨の際の流出も比較的早いために降水応答が頭打ちになりやすく、ジェボンス効果を確認できるだけの感度がないのかも知れない。
なお、鈴木・中北(2009)は降水量の標高依存性について観測調査を行い、台風や低気圧による大雨は停滞前線による大雨に比べて標高依存性(標高が高いほど降水量が多い)が高いことを指摘している。台風や低気圧の際には強風が発生することが多いことから、強風時には降水量の標高依存性が高いと言い換えることもできるだろう。気象庁の体積ひずみ計で降水補正に用いる雨量計の風速補正の効果が得られた観測点は流域面積の大きな川の近くや大きな山の斜面に位置しており、これは観測点より標高の高い上流部で降った降水の影響を受けていると考えても不自然ではない。つまり、気象庁の体積ひずみ計の一部で得られた降水補正に用いる雨量計の風速補正の効果は、強風時における降水量の標高依存性の高さに起因すると考えられる。実際、これらの体積ひずみ計で降水補正に補正不足が生じている事例は台風や低気圧の通過時が多いが、多くの事例でレーダーアメダス解析雨量の面的分布において降水量の標高依存性が確認できている。また、観測点周辺の雨量計を用いた場合の風速補正では捕捉率が1.0よりも小さかったのに対し、標高の高いアメダスを用いた場合の風速補正では捕捉率が1.0を超えるケースも見られた。観測点周辺よりも標高の高いところの雨量計データを降水補正に使うには強風時に多めに降りすぎているということである。つまり、体積ひずみ計のような地殻変動観測施設の設置した場所によっては、観測点周辺で降水量を観測するだけでは不十分な場合もあり、観測点に影響を及ぼす標高の高い上流部で降った降水を何らかの方法で把握することによって降水補正を精緻化できる可能性があることが、体積ひずみ計の降水補正に用いる雨量計の風速補正という一見無関係に見える効果から示唆される。
雨量計による観測には、強風時に雨滴の捕捉率が落ちるジェボンス効果があることが知られている。特に降水が雨よりも雪で顕著であるが、幸か不幸か気象庁の設置した体積ひずみ計は降水が雪として降りにくい東海地域や南関東地域である。横山・他(2003)は、雨量計の形状(風よけの有無等)にもよるが降水が雨の場合でも風速6m/sにおいて捕捉率が0.7~0.9に落ちることを指摘している。このような雨量計という測器そのものに起因する効果について体積ひずみ計で確かめられるのではないだろうかという視点で、体積ひずみ計の降水補正に用いる雨量計の風速補正についての調査を行った。しかし、この目論見は成功しなかった。気象庁の体積ひずみ計の降水補正パラメータ等を元に各観測点の特徴について検討したところ、その場で観測した降水量データだけで降水応答を説明できる観測点とそうではない観測点があり、後者については流域面積の大きな川の近くや大きな山の斜面に位置しており周辺部からの流入があっても不自然ではない。ジェボンス効果を確認できるとすれば、周辺部の降水の影響が少ない前者の観測点であろうと予想していたが、実際に降水補正に用いる雨量計の風速補正の効果が得られたのは予想に反して後者の観測点であった。その場で観測した降水量データだけで降水応答を説明できる観測点では大雨の際の流出も比較的早いために降水応答が頭打ちになりやすく、ジェボンス効果を確認できるだけの感度がないのかも知れない。
なお、鈴木・中北(2009)は降水量の標高依存性について観測調査を行い、台風や低気圧による大雨は停滞前線による大雨に比べて標高依存性(標高が高いほど降水量が多い)が高いことを指摘している。台風や低気圧の際には強風が発生することが多いことから、強風時には降水量の標高依存性が高いと言い換えることもできるだろう。気象庁の体積ひずみ計で降水補正に用いる雨量計の風速補正の効果が得られた観測点は流域面積の大きな川の近くや大きな山の斜面に位置しており、これは観測点より標高の高い上流部で降った降水の影響を受けていると考えても不自然ではない。つまり、気象庁の体積ひずみ計の一部で得られた降水補正に用いる雨量計の風速補正の効果は、強風時における降水量の標高依存性の高さに起因すると考えられる。実際、これらの体積ひずみ計で降水補正に補正不足が生じている事例は台風や低気圧の通過時が多いが、多くの事例でレーダーアメダス解析雨量の面的分布において降水量の標高依存性が確認できている。また、観測点周辺の雨量計を用いた場合の風速補正では捕捉率が1.0よりも小さかったのに対し、標高の高いアメダスを用いた場合の風速補正では捕捉率が1.0を超えるケースも見られた。観測点周辺よりも標高の高いところの雨量計データを降水補正に使うには強風時に多めに降りすぎているということである。つまり、体積ひずみ計のような地殻変動観測施設の設置した場所によっては、観測点周辺で降水量を観測するだけでは不十分な場合もあり、観測点に影響を及ぼす標高の高い上流部で降った降水を何らかの方法で把握することによって降水補正を精緻化できる可能性があることが、体積ひずみ計の降水補正に用いる雨量計の風速補正という一見無関係に見える効果から示唆される。