日本地球惑星科学連合2014年大会

講演情報

口頭発表

セッション記号 S (固体地球科学) » S-SS 地震学

[S-SS34_29AM1] 活断層と古地震

2014年4月29日(火) 09:00 〜 10:48 502 (5F)

コンビーナ:*吾妻 崇(独立行政法人産業技術総合研究所)、杉戸 信彦(法政大学人間環境学部)、藤内 智士(高知大学理学部応用理学科)、吉岡 敏和(独立行政法人産業技術総合研究所活断層・地震研究センター)、座長:小松原 琢(独立行政法人産業技術総合研究所)、杉戸 信彦(法政大学人間環境学部)

09:30 〜 09:45

[SSS34-03] SfMによる大正関東地震の石碑碑文の判読‐千葉県南房総市厳島神社の石碑について

*鈴木 比奈子1内山 庄一郎1井上 公1 (1.独立行政法人防災科学技術研究所)

キーワード:SfM, 石碑, 判読, 歴史災害, 野島崎

歴史上、ある地域で同様の自然災害が繰り返す事例は数多く存在する。地域の経験した過去の自然災害を知るうえで、災害記念碑(以下石碑)などの歴史災害資料は有用である。しかし屋外に存在する石碑は日々風化が進み、文字の輪郭は不鮮明になり、時に失われる。従来であれば、こうした資料は拓本やX線走査による調査が行われてきた。しかしながら、拓本は対象物を汚損する恐れがあり、X線は高コストである。そのような中、SfM (Structure from motion) などの画像処理をベースとした三次元形状復元技術により、デジタルカメラとデスクトップPCで容易に三次元モデルを生成できるようになった。判読が困難となった石碑に対しSfMを用いることで、低コストかつ効率的に歴史災害資料の解析に活用できる可能性がある。本稿では、千葉県南房総市にある厳島神社境内の大正関東地震に関する石碑(1927年建立)を対象に、SfMの適用とその活用可能性について検討した。この石碑の碑文は268文字の漢文調で、本地域の海岸の隆起量(六尺)や被害の様相、復興の社会的な動きが記録された貴重な災害資料である。石碑のサイズは幅80 cm、高さ150 cm、厚さ12 cmほどの板碑で、表面に5 mm程度の深さで文字が彫られている。文字列は,苔の繁茂や風化作用によって読み取りが難しくなりつつある。この石碑から60 cm程度の距離でカメラ (Richo GR) を保持し、石碑表面に対して平行移動しながら158枚の写真を撮影した。撮影した写真を基にSfM処理を行い、三次元モデルを生成した。SfMソフトウェアにはAgisoft PhotoScan 1.0.1を用いた。SfM処理で生成した三次元モデルでは、石碑表面の微細な汚れの影響が除去され、文字の彫りの凹凸が抽出された。さらに陰影処理を行うことで、明瞭に文字列が判読できる状態となった。判読した石碑の本文と大意は以下のとおりである。【本文】「震災復興記念■碑大正十二年九月一日関東地大震海底之隆起約六尺如我白濱亦漁港水涸舟揖之便全廃矣爾來区民相謀與村当局協力日事其復興浚海底(※1)岩石候潮汐以力役大正十三年三月起工同十五年六月十日竣工工別東西費猶七與八総金一万五千余円所謂嶋崎之左右以象野島者是也当時凄惨絶言語而此地有燈台倒潰之一大驚異焉然全村被害極微区民以爲神明之冥護甲唱乙和欲改築鎮守厳島神社以報神徳得懸費補助金八百二円宮城福島両県之寄付金百四十二円総金四千七百円昭和二年二月二十日又竣成於是区民之志両達矣乃樹此碑勒其梗概以(※2)後嗣者云昭和二年七月十日建之」【大意】「震災復興記念碑大正12(1923)年9月1日、関東大地震で海底が約1.8m隆起した。私達の白浜の漁港は潮が引いてしまい、船が掬われてすべてだめになった。これより後、住民は村当局と力を合わせて一緒に計画を立てて、毎日、朝から晩まで復興のため岩石をうがち、海底をさらう作業を行うこととなった。大正13(1924)年3月に工事が始まり(起工)、大正15(1926)年6月10日に完了した(竣工)。工事の総額は1万5000円余りであった。野島は周囲が現れて、岬となった場所であるが 、当時、この地の灯台が倒壊したのは普通では考えられないくらいの驚きで言葉が出ないくらいむごたらしい様子だった。しかし、村全体の被害は軽微で、住民は神様が知らず知らずのうちに守ってくださったからだ、鎮守の厳島神社を改築したいと誰かが言いはじめ、皆が同意した。神様のご神徳に報いるお金は補助金802円と宮城、福島両県からの寄付金142円を合わせ総額4,700円を得た。昭和2(1927)年2月20日に竣成し、住民たちの両方の希望がかなった。そこで、このことを子孫に念入りに伝えるためにこのあらましを石に刻み石碑を建てる。昭和2(1927)年7月10日建之」SfMの活用は石碑の文字列の判読に有効であり、非接触式の手法であることから、石碑を損なうことなく情報の取得が可能である点もメリットである。撮影は容易で、なおかつオープンソースのSfMソフトウェアを使用すればコストも非常に小さい。生成した三次元モデルは共有可能な程度のデータサイズであり、研究者等のネットワークで共有しデータベース化することで、研究の促進や、石碑の地理空間的な分布を示すなど、今後の展開が期待される。■:読み取り不能文字、※1:歯殳の下に金、※2:言の右に念