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[SSS34-06] 福井県小浜湾沿岸の地殻変動と断層運動
キーワード:海成段丘面, 旧汀線高度, 海底活断層, 数値計算, 小浜湾
1 はじめに 福井県若狭湾沿岸地域は、電力事業者の詳細な調査により微量のテフラも検知され、海成段丘面の編年が可能となっている地域である。たとえば、関西電力による詳しい分析によって、大飯原子力発電所敷地内に分布する海成段丘面の被覆層中からK-Tz火山灰(約950ka)が見出され、小浜湾沿岸におけるMIS 5eの海成段丘面の対比・編年を行うことが可能となった。本研究では、海成段丘面(MIS 5e)の旧汀線高度分布と断層運動との関係を数値計算によって検討した。その途中経過を報告する。なお、「旧汀線高度」とは地形的に認められる汀線アングルの高度のことを指し、精度0.01m程度のレーザー計測装置を用いて測定した。本研究では、平成25~28年度科学研究費補助金(基盤研究(C)研究代表者:渡辺満久)を使用した。2 海底活断層と海成段丘面(1) 活断層と海成段丘面との関係:小浜の東南東約20kmの位置から小浜湾沿岸付近まで、WNW-SES走向の熊川断層が連続するとされている。また、日本海沖から小浜湾入り口までは、NW-SE走向で延長約35kmのFO-B断層・FO-A断層が分布している。いずれも左横ずれの活断層であると考えられているが、前者の方が縦ずれ量は大きい。これらの活断層が小浜湾の中で連続しているかどうかは、現在、議論の的になっている。海成段丘面は、後述するように、すべて熊川断層とFO-A断層を連続させた場合の「隆起側」に分布している。「沈降側」にあたる内外海半島には、複数の河成面が確認できるものの、海成面の可能性がある平坦面は見いだせない。(2) 大島半島の海成段丘面:大飯原子力発電所敷地では、3つの平坦面が確認できる。このうち、最下位のものは人工平坦面の可能性がある。中位の平坦面は平坦性が高く、波蝕によって平坦化された岩盤上面と、これを覆う層厚数m以下の海成礫層が確認できる。関西電力の詳細な分析によると、この海成層はK-Tz火山灰に覆われることからMIS 5eの海成段丘面に対比できる。大島半島北端部の鋸崎では、岩盤の露出高度は12m程度、旧汀線高度は15m程度である。ただし、ここから西方へ1km足らずの台場浜では、旧汀線高度は8~11mとなる。最高位の平坦面は鋸崎に見られ、その高度は約22mであるが、詳細は不明である。中位の平坦面(海成面)は、赤礁(アカグリ)﨑へ追跡することができる。赤礁﨑においても、波蝕台状の基盤上面を覆う海成礫層が確認でき、旧汀線高度は10~11mであった。また、大島周辺の海成段丘面と推定される平坦面の旧汀線高度は約10mである。(3) 小浜湾南岸:波縣鼻から西方の津崎鼻にかけては、少なくとも2面の海成段丘面が認められる。下位の段丘面は平坦性が高く、堆積物は褐色~赤褐色を呈する。高位の海成面はやや丸みを帯びた尾根上の形態となっており、堆積物には比較的顕著な赤色化が見られる。これらの特徴から、下位の海成段丘面が大飯原子力発電所敷地内の海成段丘面(中位の平坦面)に対比できる。その旧汀線高度は、波縣鼻付近では約10mであるが、西方の袖﨑付近では20m弱と高度を増す。さらに西方では徐々に高度を下げ、津﨑鼻付近では約10mまで低下する。長井~尾内には標高5~7mの平坦面が分布しているが、詳細は不明である。高位の海成段丘面の旧汀線高度は、波縣鼻付近では13m程度(精度が悪い)、片江鼻~津﨑鼻付近では13.5m程度である。高位の海成段丘面の分布は限られているため、旧汀線高度の変化パターンは不明である。3 考察 内外海半島と小浜湾南岸は、いずれも古生界粘板岩類から成り、岩質の違いによって海成面の発達程度に違いがあるとは考えにくい。内外海半島に海成段丘面が見出されないのは、FO-A断層と熊川断層が連続しており、その「沈降側」に位置していることが理由である可能性が高い。両活断層を連続させると、トレースは鋸崎付近で折れ曲がることになる。また、熊川断層の方が相対的に低角な逆断層成分をもつと想定される。このような断層モデルから計算される鉛直変位量分布は、旧汀線高度分布と調和的である。