日本地球惑星科学連合2014年大会

講演情報

口頭発表

セッション記号 S (固体地球科学) » S-SS 地震学

[S-SS34_29AM2] 活断層と古地震

2014年4月29日(火) 11:00 〜 12:45 502 (5F)

コンビーナ:*吾妻 崇(独立行政法人産業技術総合研究所)、杉戸 信彦(法政大学人間環境学部)、藤内 智士(高知大学理学部応用理学科)、吉岡 敏和(独立行政法人産業技術総合研究所活断層・地震研究センター)、座長:藤内 智士(高知大学理学部応用理学科)

11:45 〜 12:00

[SSS34-10] コンピュータシミュレーションを用いた櫛挽断層トレンチ側面で観察された地層変形の再現

*安藤 広一1 (1.首都大学東京大学院 都市環境科学研究科)

キーワード:櫛挽断層, 地表地震断層, バックスラスト, 断層すべり速度, シミュレーション, CIP 法

はじめに 東日本-中部日本にかけては第四紀広域応力場として東西圧縮力が働いている.その結果,同地域には多くの低角逆断層が発達している.これらの逆断層は地下数キロ以浅において分岐しバックスラスト撓曲等の複雑な形態を示すことがある. 断層の内,断層活動に伴って地震波を発生させる領域は3 km以深と考えられている.すなわち,3 km以浅で震源断層から分岐した二次的な地表地震断層は地震波を発生させないと考えられる.また,震源断層と直接連続している地表地震断層が周辺地域の主要な地殻変動を規定していると考えられる.したがって,防災や地形発達史を考察するためには,地表地震断層のうち震源断層と直接連続しているものと,断層面の分岐等による二次的なものを区別する必要がある. ところで,アナログ実験や動力学モデルにおいて断層すべり速度が表層付近で加速する結果が得られている(e.g., Brune, 1996; Shi et al., 1998).シミュレーションによって,断層傾斜角15°?45°の逆断層では地表面における最大断層すべり速度が 2.5?4.0 m/s に達することが知られている(e.g., Oglesby et al., 2000; Ma and Hirakawa, 2013).これに対して,岩手・宮城内陸地震で発生した二次的なバックスラストでは最大断層すべり速度が約0.05 m/sと上記に比べて極端に遅くなるとされる(安藤・山崎, 2013).したがって,最大断層すべり速度を求めることで震源断層に直接つながる地表地震断層と二次的な地表地震断層を区別できる可能性がある. そこで,本研究では数値計算によって深谷断層の二次的なバックスラストとされている櫛挽断層の最大断層すべり速度を求めた.関東平野北西縁断層帯と櫛挽断層の関係 杉山ほか (2009b)によると,関東平野北西縁断層帯は関東山地北部と関東平野北西部の境界付近に位置する北西-南東走向の活断層帯である.この断層帯の主部は,南西側隆起の逆断層である深谷断層とその北西及び南東に位置する断層群からなる.また,深谷断層の南西部には深谷断層と平行に走る平井-櫛挽断層帯が存在する.この断層帯は平井断層,櫛挽断層および神川断層からなる.これらの断層は,平井断層をのぞいて深谷断層のバックスラストであるとされる(杉山ほか, 2009a).さらに,櫛挽断層はトレンチ調査およびボーリング調査からから新第三系の層理面に平行な断層傾斜角約20°の層面断層であるとされる(杉山ほか,2009b; 新谷ほか, 2009).研究手法 地層変形シミュレーションプログラムSDSSC (Strata Deformation Simulation System using CIP method) Ver 4.09(安藤, 2013)に,櫛挽断層西端部に位置する埼玉県大里郡寄居町大字用土字下平で行われたボーリング調査(杉山ほか, 2009b)およびトレンチ調査(新谷ほか, 2009)から得られた同地区の層序,断層傾斜角,単位変位量を入力し,断層変位に伴う堆積・浸食過程を考慮したシミュレーションを行い,地層変形の形状をトレンチの観察結果とマッチングすることで断層活動時の断層すべり速度の推定を行なった. トレンチ地点の土質定数については同地点での土質試験が行われていないので不明である.したがって,吉見・竿本(2006) によって行われたボーリング試料に対する土質試験の結果をトレンチ地点の土質定数に当てはめて計算を行なった.また,地層の変形特性としてHajiabdolmajid et al., (2002)で紹介されているCWFS (cohesion weakening and frictional strengthening) model を採用して計算を行なった.結果・考察 計算の結果,櫛挽断層の断層活動時の最大断層すべり速度は1-1.5 m/sと推定された.この値はシミュレーションによって推定されている震源断層に直接つながる逆断層の地表面における最大断層すべり速度の25-60%にあたる. したがって,二次的なバックスラストの最大断層すべり速度は震源断層に直接つながる逆断層にくらべて遅いことが示唆される.謝辞本研究のために、東京大学地震研究所地震火山情報センターの計算機システムを利用させていただきました。