日本地球惑星科学連合2014年大会

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ポスター発表

セッション記号 S (固体地球科学) » S-SS 地震学

[S-SS34_29PO1] 活断層と古地震

2014年4月29日(火) 18:15 〜 19:30 3階ポスター会場 (3F)

コンビーナ:*吾妻 崇(独立行政法人産業技術総合研究所)、杉戸 信彦(法政大学人間環境学部)、藤内 智士(高知大学理学部応用理学科)、吉岡 敏和(独立行政法人産業技術総合研究所活断層・地震研究センター)

18:15 〜 19:30

[SSS34-P01] 放射性炭素年代を用いた黒色土の層序対比と断層変位基準認定への活用

*安江 健一1廣内 大助2國分(齋藤) 陽子1松原 章浩1古澤 明3 (1.日本原子力研究開発機構、2.信州大学、3.古澤地質)

キーワード:放射性炭素年代測定, C-14年代, 黒色土, 阿寺断層, 活動時期

活断層の活動時期を正確に把握するためには、断層周辺の堆積物の堆積時期を高精度に決定する必要がある。堆積時期の決定には、主に14C年代や火山灰層序が用いられる。しかし、堆積時期の決定に適した14C年代測定試料(葉、球果など)や火山灰は、堆積物中のどこにでも含まれているわけではなく、全く分布しないこともある。そこで本研究では、地表付近で比較的分布することが多い一方で、層理面の判定が難しい黒色土について、14C年代測定を深さ方向に実施し、堆積年代に基づいて層序を対比した。さらにその結果を踏まえて、活断層の変位基準の認定とそれに基づく活動時期を検討した。
本研究では、まず試料の黒色土から草木の根や炭などを可能な限り取り除いた。次に、1Mの塩酸により炭酸塩などを除去した後、1Mの水酸化ナトリウムによる処理を行い、そこで得られるアルカリ可溶成分(フミン酸)を測定試料とした。一方、溶解しない成分はさらに1Mの塩酸による処理を行い、その残渣(ヒューミン)を測定試料とした。上記の試料調製及び年代測定は、日本原子力研究開発機構東濃地科学センター及び同センターの加速器質量分析装置(JAEA-AMS-TONO)で実施した。
試料は、岐阜県東部に分布する阿寺断層で実施されたトレンチ掘削(廣内ほか,2006)の壁面から採取された黒色土である。壁面においては、断層から約50cm離れた上盤及び下盤からそれぞれ層厚約60cmの試料を3~6cm程度の間隔で連続採取し、14C年代を測定した。フミン酸の年代測定は、上盤側で12試料、下盤側で13試料であり、ヒューミンは上盤側で4試料、下盤側で6試料を選定して測定した。測定の結果は、OxCal 4.2.3(Bronk Ramsey, 2013)にIntCal13(Reimer et al., 2013)を用いて暦年較正した。
測定の結果、フミン酸の年代値は約4000~2000年前であり、下部から上部へ若くなる傾向がある。試料採取した層より下位にはK-Ahテフラが分布しており、年代値は矛盾しない。また、同一試料におけるフミン酸とヒューミンの年代値は、上盤側の最上部の1試料で1000年近い差が認められたが、それ以外は大きな差は認められない。黒色土は、下部から順に約4000年前から2000年前に向かって若くなる傾向がある。この特徴は、上盤側と下盤側の双方の試料で認められることから、断層を挟んで14C年代値から地層を対比することが可能である。また、下盤側の黒色土の上位において、層厚20cm程の礫混じり土壌の年代値はどの深度でも2000年前頃である。
以上の結果から、約4000~2000年前は断層の両側でそれぞれほぼ一定の速度で黒色土が堆積していることから、この期間にこの断層は変位していないと考えられる。下盤側の黒色土の上位では、層厚20cm程の間で2000年前頃の値であることから、堆積速度が速かったと考えられる。このような断層付近での堆積速度の急激な変化の原因の一つとして断層変位があり、2000年前頃の活動が示唆される。本結果の解釈については、阿寺断層全体の活動セグメントの問題も踏まえて、活動の時空分布を慎重に検討する必要がある。
本研究のように、黒色土を深度方向に連続的に採取し、丁寧に調製して年代測定をするとともに堆積物の特徴を踏まえて検討することで、詳細なイベント層準の認定や活動時期の解明が可能であると考えられる。発表では,より下位の14C年代測定の結果と火山灰分析の結果も加えて報告する。