日本地球惑星科学連合2014年大会

講演情報

口頭発表

セッション記号 S (固体地球科学) » S-SS 地震学

[S-SS35_2PM1] 微動探査の近年の発展

2014年5月2日(金) 14:15 〜 16:00 502 (5F)

コンビーナ:*中原 恒(東北大学大学院理学研究科地球物理学専攻固体地球物理学講座)、佐藤 浩章(電力中央研究所)、座長:中原 恒(東北大学大学院理学研究科地球物理学専攻固体地球物理学講座)、佐藤 浩章(電力中央研究所)

15:05 〜 15:20

[SSS35-P01_PG] 微動を用いた浅部構造探査法の高度化(その1):自動読み取りアルゴリズムの開発

ポスター講演3分口頭発表枠

*長 郁夫1先名 重樹2藤原 広行2 (1.産総研、2.防災科研)

キーワード:微動, 速度構造, 表面波, 位相速度, 探査, アレイ

近年,我々は微動を用いた浅部構造探査法の潜在能力を最大限に発揮するための効果的な手順を検討してきた.観測の簡易化は,ポータブル微動計の開発(先名他, 2006, 2012)に加え,CCA法を用いた極小アレイ観測と3点不規則小アレイの適用(長他, 2013a)によりほぼ実用化されたと考えている.データ解析では位相速度の分散データに古典的な直接変換法(例えば,Heukelom and Foster, 1960)を適用すれば低分解能ながら簡便にS波速度構造のイメージが得られるので,我々は不連続構造を抽出するためのツールとしてH/Vスペクトルの深度変換(長他, 2013b)を提案し,それの適用結果を位相速度と合わせて簡易逆解析法(Pelekis and Athanasopoulos, 2011)にかけることで分解能を向上できることを示した(先名他, 2013; 吉田他, 2013).
 現時点での課題は,データ解析の最初の段階すなわち位相速度の読み取りを目視で実施しているため,観測の簡易化で膨大なデータが得られるようになっても対処が困難となることである.読み取り結果の再現性や分析者の癖によるバイアスも問題となる.H/V深度変換のためのスペクトルの山谷の読み取りも目視なので同様の問題がある.そこで我々は,位相速度およびH/V深度変換を自動読み取りするために次のようなアルゴリズムを考えた.

・位相速度の自動読み取り
あるサイトにおいて複数のアレイ,複数の解析法(すなわち,nc-CCA法, CCA法, SPAC法)でそれぞれ位相速度の分散曲線が得られているとする.各分散曲線にそれぞれ次の処理を適用する.(1) 周波数を対数刻みで等間隔な区間(BIN)に分け, BINごとに位相速度を算術平均する.(2) BINごとの平均データがアレイ半径に対する相対波長が手法ごとに決められた範囲を逸脱する場合および位相速度の解析結果が解析限界に近い場合(中心点付きのアレイを用いることで解析限界が計算可能となる),それらのデータは以降の処理から除外する.隣合うBINの並びが原点を通る直線状となる場合も適切な解析結果が得られていないと判断してその区間はデータ処理から除外する.こうしてふるいにかけて得られたすべてのデータをBINごとに算術平均し,自動読み取り値とする.ただし再度データ開始部の直線的傾向をチェックし,直線的傾向が確認された場合,その区間を除外する.

・H/Vスペクトルの山谷の自動読み取り
同一サイトで得られたすべてのH/Vスペクトルを周波数ごとに算術平均し, 周波数依存のウインドウ幅を持つ窓関数で平滑化する.スペクトルの微係数が0となる点を低周波数側から順にサーチして山谷を同定する.その際,初めての山の出現後にサーチを開始し,必ず山と谷がペアになるように読み取ることとする. ロバスト化のために,隣り合う山と谷の周波数の差あるいはH/V値の比が閾値よりも小さい場合,高周波数側にある山と谷のペアは読み飛ばす仕様とする. また,ある山よりも次の山のH/V値のほうが小さい場合, あるいはある谷よりも次の谷のH/V値のほうが小さい場合も,次の山と谷のペアを読み飛ばす. こうして得られた山と谷のペアごとに,山に対応する深度と谷に対応する深度を平均してH/V深度変換の代表値とする.

ある測線に沿う微動アレイデータに上記のアルゴリズムを適用して2次元断面を描いたところ,目視で読み取った場合とそれほど違わない,概ね自然なS波速度断面が得られた(先名他, 2014(本大会)).読み取り精度にはまだ向上の余地があるものの,第一段階としては良好な結果である.本発表では実際の自動読み取りと目視読み取り結果の比較例を報告する.例えば図1はアレイ半径3.5 mの3点不規則小アレイによるCCA法の分散曲線(紫線)とアレイ半径0.6 mの極小アレイによるnc-CCA法,CCA法,SPAC法の分散曲線(それぞれ黄,青,緑線)が得られているサイトへの適用例である.自動読み取り結果(黄四角)は,異なる半径,異なる解析手法の分散曲線が互いに自然に接続し,目視(×印)による結果とほとんど相違がない.同図に示される細赤線は極小アレイによる位相速度の解析限界である.この解析限界は,それよりも位相速度が十分に低い周波数帯域では解析結果の信頼性が高いことを示す指標として自動読み取りに活用されている.