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[STT57-01] レーザーひずみ偏差計の開発~温度依存ノイズの低減
キーワード:レーザー干渉計, ひずみ計, ひずみ偏差計
1.スロー地震地震は断層のせん断すべりであり、破壊伝播速度がおよそ一定なため、断層面の縦方向、横方向、およびすべり量がそれぞれ破壊の継続時間に比例し、地震モーメントが時間の3乗に比例するスケーリング則に従う。このような通常の地震の他に、近年スロー地震が見つかった。これは、長期的スロースリップや短期的スロースリップ、深部低周波微動や超低周波地震といった現象の総称であり、これらは通常の地震と同様にせん断すべりであるが、よりゆっくりとしたすべりであることがわかっている(詳しくはレビュー論文[Beroza et al, 2011]を参照)。これらは地震モーメントが時間に比例する(M0=CT)スケーリング則をもつ同一のメカニズムの現象であるという仮説が立てられている[Ide et al, 2007]。2.スロー地震の観測における問題点スロー地震が発見されているが、スケーリング則から予想される継続時間が200秒~1日のスロー地震は観測の報告がない。その理由を調べるため、スロー地震のシグナルと背景地面振動の理論計算を行ったところ、加速度計や、ひずみ計・傾斜計の一点の観測では、背景地面振動の影響で観測できないことが分かった。3.スロー地震の観測の取り組み例背景地面振動や機器のノイズの影響を減らす一つの方法として、多点での観測を組み合わせることが考えられる。この方法で継続時間が1日未満のスロースリップの観測に迫っている先行研究として、産総研歪傾斜地下水圧統合解析 [Itaba et al,2009]が挙げられる。4.ひずみ偏差の計測変位の空間二階微分(これをひずみ偏差と呼ぶことにする)を直接測定できれば、一点の観測でも継続時間1日未満のスロー地震の信号が検出されると計算された。観測の障害となっている背景地面振動の波長は、スロー地震の震源までの距離(例えば50km)や震源域の大きさ(数km~数10km)よりもだいぶ大きいため、空間スケールの小さい現象を強調するとスロー地震を観測しやすくなる。そして、空間微分は空間スケールの小さい現象を強調する効果があるので、変位の空間二階微分であるひずみ偏差を直接測定できればスロー地震が観測できるという計算結果が得られた。5.レーザーひずみ偏差計の開発状況レーザー干渉計を用いてひずみ偏差を直接測定する装置を試作した。数十メートル規模の機器を、観測所の地面に設置する前に、地震研究所鋸山観測坑内の大気圧下で機器のノイズを測定したところ、周期10秒以上では、10-5Hzでおよそ10-12[m2s]でパワーが1/f2となるスペクトルを持つノイズが見られた。これは、気圧変化により、干渉計の非対称性によって生じる基線の光路差が変化したことが原因だと分かった。次に、実験室で干渉計の部分を真空装置に入れたところ、周期10s~10000sの帯域でノイズが1/10程度に減少したが、今度は1/fのスペクトルを持つノイズが卓越していた。光路差をなくす調整をすることによってこのノイズは低減され、このノイズの原因は、使用している2縦モード安定化型レーザーの周波数の揺らぎであると推定した。周期が5000秒以上では、1/f6のスペクトルの大きなノイズが残っていて、このノイズの大きさは周期20000s以上では以前と変わらない大きさだった。このノイズは、時間領域と周波数領域で、光学定盤の温度変化と概形としては同じ波形であった。そのため、このノイズは温度変化による光学素子や光学定盤の熱膨張が原因となっていると推定した。このノイズがひずみ偏差としては基線長の二乗に反比例して減少すると仮定した場合、継続時間10000秒のスロー地震の信号をノイズに埋もれずに捉えるのに必要な基線長は300m以上と試算された。今回は、このノイズを低減するため光学定盤を支える支柱をセラミック製にし、熱伝導を抑えて温度変化を少なくした場合の、干渉計のノイズについて解析し、今後の機器開発について説明する。