日本地球惑星科学連合2014年大会

講演情報

口頭発表

セッション記号 S (固体地球科学) » S-TT 計測技術・研究手法

[S-TT57_30PM2] 地震観測・処理システム

2014年4月30日(水) 16:15 〜 18:00 423 (4F)

コンビーナ:*八木 勇治(国立大学法人 筑波大学大学院 生命環境系)、座長:金尾 政紀(国立極地研究所)、豊国 源知(東北大学 大学院理学研究科 地震・噴火予知研究観測センター)

17:30 〜 17:45

[STT57-06] エンベロープ波形を利用した火山性地震の震源決定法の開発―三宅島B型地震への適用―

*内田 東1西村 太志2中原 恒2山里 平1藤田 英輔3 (1.気象庁、2.東北大院・理・地球物理、3.防災科学技術研究所)

キーワード:震源決定, エンベロープ相関, 三宅島

火山では,実体波読み取りによる震源決定が困難な地震がしばしば多数観測される.2000年噴火後のガス放出期の三宅島においても,構造性地震(A型地震)やP波S波が読み取れるB型地震も少数ながら観測されるものの,およそ9割はP波S波の立ち上がりが不明瞭なB型地震に分類される.これらの実体波到達時の読み取りができない場合には,複数の観測点での地震波の相関を利用する方法や,地震波振幅の大きさの空間分布を利用する方法などがあるが,定常観測網への適用や精度に課題がある.近年,Obara (2002) は,プレート境界面付近で発生する初動の不明瞭な深部低周波微動の震源を推定するために,エンベロープ相関法を提案した.この手法では,観測点ごとに地震波形のエンベロープを合成し,それらの相互相関によって観測点間のS波到達時刻差を見積ることで震源を推定する.この手法を,三宅島の火山性地震に適用した結果,実体波到達時刻読み取りによる結果と比べると,エンベロープ相関法では震源分布が全体的に南東へ約0.5 - 1 kmずれた (Uchida et al., 2013 IAVCEI).これは,エンベロープ相関法では,すべての観測点でエンベロープ形状が同じだと仮定していること,散乱など地震波伝播にともなうエンベロープ拡大を考慮していないこと,さらにエンベロープ形状のサイト特性を考慮していないことに問題がある.そこで本研究では,目視によるS波到達時刻の読みとりが可能な一部の地震を利用して,この問題点を解決する改良エンベロープ相関法を開発した.この手法は,S波到達時刻の不明な地震波形のエンベロープとS波到達時刻が対応付けられた参照イベントのエンベロープの相互相関を計算することで,不明なS波到達時刻を推定し,震源を推定するものである.参照イベントは,それぞれの観測点のエンベロープ形状が,震源決定するイベントとできるだけ相似になるよう選択されることが望ましい.そこで,目視によるS波到達時刻の読みとりが可能な一部の地震(参照イベント候補)と震源決定するイベントそれぞれで連結エンベロープを作成し,その連結エンベロープの相関係数が高い順に参照イベントを選択する.ここで連結エンベロープとは,各観測点のエンベロープ波形を,開始時刻を揃えて等しい時間窓長で切り出し,それらをあらかじめ決めた観測点順で並べて時間軸方向に連結したものである.連結エンベロープ波形の相似性が高いことは,観測点間のエンベロープ波形の立ち上がり時間差や相対的な振幅比がほぼ同じで,震源決定するイベントと参照イベントで震源が近接していることを意味する.三宅島でP波,S波の読み取りが行えた114個のA型地震および31個のB型地震を参照イベントの候補とし,1049個のB型地震にこの手法を適用した.連結エンベロープの相関係数が0.9以上となる最大で8個の参照イベントを選び,それぞれの参照イベント毎に各観測点のS波到達時刻を推定しデータとした.複数の参照イベントを使うのは,多数のS波到達時を使うことによって震源パラメータの推定誤差を小さくするためである.その結果,三宅島で観測されたB型地震の71 %の震源を推定できた.震源は,主火口の位置に近い山頂カルデラ内部南側の深さ約0 - 2 kmに推定された.A型地震は,カルデラ南側から西側にかけて分布し,一部,B型地震の発生域と重なることが分かった.さらに,実体波読み取りによる結果と比較することでその精度を検証した結果,改良エンベロープ相関法では,従来のエンベロープ相関法 (Obara, 2002) の場合に比べると水平偏差の大きさが10分の1に減少し,系統的な震源位置のずれがほぼ解消された.この改良エンベロープ相関法は,標準的な火山観測網に適用できるので,より多くのB型地震の震源の推定が可能となり,火山活動の監視や火山性地震の発生過程の解明に役立つことが期待される.