日本地球惑星科学連合2014年大会

講演情報

ポスター発表

セッション記号 S (固体地球科学) » S-TT 計測技術・研究手法

[S-TT59_29PO1] 合成開口レーダー

2014年4月29日(火) 18:15 〜 19:30 3階ポスター会場 (3F)

コンビーナ:*山之口 勤(一般財団法人 リモート・センシング技術センター)、小林 知勝(国土交通省国土地理院)、宮城 洋介(防災科学技術研究所)

18:15 〜 19:30

[STT59-P11] 中央アジア,キルギス・アラトー山脈における岩石氷河の空間分布と分類

*山村 祥子1奈良間 千之1冨山 信弘2田殿 武雄3 (1.新潟大学自然科学系、2.財団法人リモート・センシング技術センター、3.宇宙航空研究開発機構)

キーワード:山岳永久凍土, 岩石氷河, 差分干渉SAR, ALOS PALSAR, 天山山脈

乾燥・半乾燥地域である中央アジアの水資源を見積もる上で,山岳氷河と山岳永久凍土の現状把握の必要性が述べられているが(Sorg et al., 2012),山岳氷河の分布とその変動が調査されている一方,山岳永久凍土の調査報告は一部地域を除いて報告されていない(Marchenko et al., 2007).さらに,近年では,天山山脈のアク・シイラック山脈において山岳永久凍土の融解に起因する地すべりが生じるなど,災害の側面も含め山岳環境にも大きな影響を与えつつある.スイス・アルプスでは,岩石氷河が山岳永久凍土環境の存在指標として指摘されて(Haeberli,1985),岩石氷河を用いた山岳永久凍土の空間分布の解明,岩石氷河の流動速度や表面形態の経年変化から山岳地域の温暖化の影響が指摘されるなど,山岳永久凍土環境の研究が活発におこなわれている(Kaab et al., 2006; Roer et al., 2005).そこで本研究では,山岳永久凍土の存在指標である岩石氷河を用いて,未だ明らかでない天山山脈の山岳永久凍土の空間分布やその現状を明らかにするため,キルギス・アラトー山脈中央部の岩石氷河の空間分布と形態分類をおこなった.さらに,これら形態的特徴から分類した岩石氷河に差分干渉SARを適用し,ALOS PALSARデータを用いて,岩石氷河の流動から分類結果を検証した.
空中写真判読・ALOS衛星データ・GoogleEarthを用いて,デブリ地形のポリゴン・ポリラインデータをArcGIS上で作成し,それを基にデブリ地形から岩石氷河を認定,さらに,現地調査とALOS AVNIR-2によるNDVIの植生指標により現成型と停滞~化石型を分類した.その空間分布をみると,現成型岩石氷河の分布の多くは,山脈の北斜面に集中している.さらに現成型岩石氷河を背後の氷河と氷河地形の有無から氷河起源と崖錐起源に分類した.現成型と認定した岩石氷河のうち,氷河起源の岩石氷河が数多く確認された.
周氷河帯とその上位に分布する不連続山岳永久凍土帯を現成の岩石氷河の分布高度と気象観測所のデータから推定した結果,現在の不連続山岳永久凍土帯は北側では3300m以上,南側では3500m以上であることがわかった.現地の気象観測所の標高と気温をもとに気温の逓減率から推定される本研究の山岳永久凍土帯下限高度における年平均気温は,年平均気温-2℃~-4℃という世界各地の山岳永久凍土帯下限高度の気温条件(藤井,1980)に調和的である.調査地域においては,背後に末端がデブリで覆われた小規模な山岳氷河を持ち,氷河末端部からそのまま岩石氷河に移行している氷河起源の岩石氷河が多く確認された.この結果は,崖錐起源が多くを占めるスイス・アルプスと大きく異なる.これほど多くの氷河起源タイプの岩石氷河が存在する理由として,この山脈に分布する氷河の末端部は岩屑に覆われており,この不明瞭な末端部は,永久凍土帯の下限高度よりも上方に位置し,氷河後退の過程で形成されたデブリで覆われた埋没氷が永久凍土化して流動し岩石氷河の形態に移行したと考えられる.これら認定した岩石氷河の流動解析には,2007年,2009年,2010年のALOS PALSARデータを使用した.上述の形態による分類から,山脈北側斜面のほうが認定した現成型岩石氷河が広く分布するが,北斜面よりも山脈南斜面で流動する岩石氷河を多く確認した.崖錐起源の岩石氷河の流動は世界的にも数多く報告されているが,本研究地域においては氷河起源と認定した岩石氷河の明瞭な変動を確認できた.今後は,さらに観測期間の短いデータを用いて詳細な流動を調べる予定であり,この結果は当日報告する.