10:15 〜 10:30
[SVC50-06] 噴出率・噴火様式とマグマ溜まり粘性との関係
キーワード:マグマ噴出率, 噴火様式, マグマ溜まり粘性, 爆発的噴火-溢流的噴火の遷移, 斑晶量, 全岩化学組成
マグマ噴出率は,噴火ダイナミクスを理解するために最も基本的な観測量の1つである.多くの場合に地質学的・地球物理学的データから得られるこの量を,岩石学的データ,および火道内のマグマの流体力学と結びつけて議論することを試みる.まず,さまざまな噴火様式(プリニー式,準プリニー式,玄武岩質プリニー式,溶岩流,溶岩ドーム)ごとに,噴出率・全岩化学組成・斑晶量を計100組あまりコンパイルした.そしてこれを,「マグマ溜まり粘性」(preeruptive magma viscosity; Takeuchi, 2011)に着目して整理した.マグマ溜まり粘性とは,マグマ溜まりにおけるマグマ(メルト+結晶)の粘性であり,マグマの噴火能力 (eruptibility) の重要な指標である.マグマ溜まり条件(温度・含水量)におけるメルト組成と斑晶量から計算される.ここでは,メルト組成を全岩組成と斑晶量から簡便に算出する方法(竹内,2010)を用いた.得られたマグマ溜まり粘性と噴出率・噴火様式の関係をみると,噴火様式はマグマ溜まり粘性と相関する一方,全岩化学組成とはあまり相関しなかった.次に,爆発的噴火(e.g., プリニー式)と溢流的噴火(e.g., 溶岩ドーム)との間の遷移(e.g., Kozono and Koyaguchi, 2009a,b)を理解するため,同一噴火内における爆発的フェーズと溢流的フェーズの噴出率をピックアップし,マグマ溜まり粘性との関係を調べた.その結果,マグマ溜まり粘性が高いほど,両フェーズの噴出率のギャップ(噴出率比)も大きいことが分かった.これは,爆発的噴火と溢流的噴火の遷移条件がマグマ溜まり粘性に制約されていることを示唆する.以上の結果は,噴火様式や噴出率を,マグマ溜まり粘性(マグマ溜まり条件)が大きく支配していることを示している.特に,マグマ溜まり粘性が104 Pa s付近を境に,2つのタイプに分けられそうである.(1) 低粘性タイプ(玄武岩〜低斑晶量安山岩):爆発的噴火は玄武岩質プリニー式〜準プリニー式,溢流的噴火は溶岩流が多く,両噴火の噴出率のギャップは小さい;伊豆大島1986年噴火,ヘクラ1947・1970・1980・1991年噴火,新燃岳2011年噴火,など.(2) 高粘性タイプ(高斑晶量安山岩〜流紋岩):爆発的噴火はプリニー式(あるいは準プリニー式の連発),溢流的噴火は溶岩ドーム・潜在ドームが多く,両噴火の噴出率のギャップは大きい;全岩SiO2と斑晶量に負の相関が見られる;ピナツボ1991年噴火,セントヘレンズ1980-86年噴火,有珠1977-78年噴火,など.2つのタイプは,各マグマの生成・蓄積過程(e.g., 結晶分化,マッシュ状マグマ溜まりからのメルト分離)を反映している可能性がある.