日本地球惑星科学連合2014年大会

講演情報

口頭発表

セッション記号 S (固体地球科学) » S-VC 火山学

[S-VC50_2AM2] 火山噴火のダイナミクスと素過程

2014年5月2日(金) 11:00 〜 12:45 315 (3F)

コンビーナ:*鈴木 雄治郎(東京大学地震研究所)、奥村 聡(東北大学大学院理学研究科地学専攻地球惑星物質科学講座)、小園 誠史(東北大学大学院理学研究科地球物理学専攻)、座長:前田 裕太(名古屋大学)、嶋野 岳人(常葉大学大学院環境防災研究科)

11:00 〜 11:15

[SVC50-08] 爆発地震の解析から示唆されるフィリピン・マヨン火山の水蒸気爆発モデル

*前田 裕太1熊谷 博之1Lacson Rudy2Figueroa Melquiades2山品 匡史3大倉 敬宏4Bornas Antonia2 (1.名古屋大学、2.PHIVOLCS、3.高知大学、4.京都大学)

キーワード:水蒸気爆発, 波形インバージョン, 震源時間関数, 熱水変質

マヨン火山はフィリピンで最も活発な活火山の一つであり1616年から2010年までに計49回の噴火を繰り返してきた。このマヨン火山において2013年5月7日に水蒸気爆発が発生、5人の登山者が犠牲となった。本講演では波形インバージョンにより水蒸気爆発時の地震波を解析し、その結果をもとに同火山における水蒸気爆発の発生モデルに関して考察を行ったのでそれについて報告する。我々は2011年より同火山に広帯域地震計3観測点を設置して連続観測を行ってきた。この観測網によって2013年爆発時に卓越周期0.4 HzのVLPイベントが記録された。同イベントの波形に0.1-0.6 Hzのバンドパスフィルターを掛け、周波数領域で波形インバージョンを行ったところ、火口直下近傍浅部における水平な開口クラックと鉛直なシングルフォースの組合せの解が得られた。クラックとシングルフォースからの波形への寄与の振幅は同程度であった。波形インバージョンで得られた震源時間関数はバンドパスフィルターの掛かったもの(filtered source time function; FSTF)であるので、フィルターの掛かっていない本来の震源時間関数(deconvolved form of source time function; DSTF)とは形状が大きく異なる可能性がある。DSTFの推定のためにはFSTFからバンドパスフィルターをデコンボリュージョンする必要があるが、数値的に安定にこれを行うのは容易ではない。そこでDSTFの候補として単純な関数形である有限な時間幅を持ったステップ型・インパルス型の関数を考え、これらにバンドパスフィルターを掛けたものをFSTFと比較したところ、インパルス型を用いた場合にFSTFに比較的近い波形が得られた。このことはDSTFがインパルス型の関数で近似できることを示している。開口クラックに対するDSTFは膨張とそれに引き続く収縮を示し、シングルフォースに対するDSTFはクラックの開口量最大となる時刻近傍での下向きの力を示す。爆発の前兆現象探索のため、地震波の連続記録におけるRMS振幅、山体を挟むGPS基線長、山頂の高温域の地表面温度、観測点間の地震波波形相関、二酸化硫黄放出量、降雨量の時間変化を調べたが、いずれにおいても爆発前に明瞭な前兆現象は見つからなかった。以上の結果をもとに考察を行う。解析したVLPイベントは水蒸気爆発時のものであるので、クラックのDSTFの前半部分に見られる膨張はクラック内の地下水の沸騰によるものと解釈できる。浅部の水平なクラック解が得られたことと合わせて考えると、透水層と不透水層の境界が弱面となってクラックが生成、そこに地下水が蓄積・沸騰して水蒸気爆発に至ったというモデルを考えることができる。一方、DSTFの後半に見られる下向きのシングルフォースは爆発の反力、クラックの収縮は爆発時の水蒸気放出によるものと理解できる。モーメント振幅は400 m×400 mのクラックが0.4 mの厚さの膨張・収縮をしたと考えることで説明がつくが、これに相当する規模の山頂近傍の地形変化は観測されていない。したがって爆発の領域は限定的でクラックの大部分は爆発によって破砕されなかったものと思われる。このようなクラックにおいて繰り返し爆発が発生する可能性について検討する。爆発の直後にはクラックの一部が破砕された状態にあるために水蒸気を保持することができない。しかしながら熱水変質の進行に伴って爆発で破砕された部分の浸透率が徐々に低下すればクラックはやがて密閉構造となって次の爆発を起こしうる。マヨン火山では2003, 2004, 2006, 2009年に火山灰を放出する小規模な爆発が発生しており、これらが今回の爆発と同じクラックによって発生したとすると爆発の間隔は数日~数年(多くは1ヶ月以上)となる。一方、マヨン火山の過去のマグマ噴火の噴出物に類似の組成を持つ玄武岩を用いた熱水変質の室内実験(Berger et al., 1994, Geochim. Cosmo. Acta)から、センチメートルオーダーの隙間が熱水変質鉱物の沈殿によって閉塞されるのに要する時間は300℃の環境下で2ヶ月、150℃の環境下で4年6ヶ月と推定でき、上記の爆発の間隔と近い値になる。このモデルでは水蒸気爆発の発生時期は密閉構造の形成によって規定されるので、ガス・熱・地下水の定常的な供給があればその供給レートが変化しなくても水蒸気爆発を起こしうる。このことは今回の爆発前に明瞭な前兆現象が観測されなかったことと整合的である。またマヨン火山では2011年の観測開始以来、今回の水蒸気爆発時を除いてVLPイベントは観測されていないが、このことも爆発の直前に密閉構造が完成したと考えれば説明がつく。