日本地球惑星科学連合2014年大会

講演情報

口頭発表

セッション記号 S (固体地球科学) » S-VC 火山学

[S-VC50_2AM2] 火山噴火のダイナミクスと素過程

2014年5月2日(金) 11:00 〜 12:45 315 (3F)

コンビーナ:*鈴木 雄治郎(東京大学地震研究所)、奥村 聡(東北大学大学院理学研究科地学専攻地球惑星物質科学講座)、小園 誠史(東北大学大学院理学研究科地球物理学専攻)、座長:前田 裕太(名古屋大学)、嶋野 岳人(常葉大学大学院環境防災研究科)

11:15 〜 11:30

[SVC50-09] 深部低周波地震,山体変動,地中CO2濃度変化の関連からみた伊豆大島火山の噴火準備過程の特徴

*渡辺 秀文1 (1.東京都総合防災部)

キーワード:伊豆大島火山, 噴火予測, 噴火準備過程, 山体膨張, CO2脱ガス

噴火の中期予測のためには,深部からのマグマ供給・蓄積過程を把握するだけでなく,噴火に至る過程の理解(特に,マグマ溜り内の揮発成分濃度や気泡存在度の変化,噴火へ向けてのマグマ再上昇開始の条件など)が重要である.本講演では,伊豆大島火山1986年噴火後の長期的な山体膨張変動,深部低周波地震活動および山頂地中CO2ガス濃度変化の関連からみた,噴火準備過程の特徴について報告する.1986年噴火後の山体膨張の特徴:1989年後半に伊豆大島火山の山体膨張が再開したが,伊豆大島において最も高感度で長期間連続観測されている気象庁旧大島測候所の体積歪計データを再解析した結果,いくつかの注目すべき特徴が明らかになっている.(1) 経年的な山体膨張は2006年頃までは指数減衰曲線で非常に良く近似できるが,2007年以降はそのトレンドから外れて大きくなっている.(2) 経年的な膨張に重畳して,1-2年間隔で収縮-膨張変動が繰り返し発生し,1993-2011年に収縮-膨張サイクルが10回発生しているが,殆どの場合に収縮から始まり,途中で急速に反転膨張するという特徴がある.(3) 変動の振幅と継続時間が1999年頃以降増大している(最大約2μstrain).このような収縮-膨張変動は1986年噴火前にも観測されており,最大振幅は約5μstrainであった(渡辺,2008年連合大会).深部低周波地震活動と山体変動の関連: 2001-2011年の期間の気象庁一元化処理震源によると,大島直下深さ30-40kmの上部マントルに発生する深部低周波地震の発生回数が2007年以降増大しており,それに約1.5ヶ月遅れて山体周辺の地震回数が増加している.また,2010年の膨張イベントに際しても同様な時間的な関連が認められる.従って,2007年以降の山体膨張速度の増大は,上部マントルからのマグマ供給率の増大によるものと考えられる.さらに,体積歪変化と深部低周波地震の発生回数の関係を調べると,2007年および2010年の両イベントとも,山体収縮が先行し,その後の反転膨張と深部低周波地震の発生回数増加がほぼ同期していることが分かった.山体収縮-膨張サイクルの概念モデル:これらの観測事実を総合すると,収縮-膨張サイクルを説明する以下の概念モデルが得られる.(1) 浅部マグマ溜り上部に濃縮したCO2に富む気泡が間欠的に外部へ流出することにより減圧し,(2) その結果生じる深部マグマ溜りとの圧力差の変化により,深部から浅部へ向けて揮発性分に富むマグマの上昇が起こり,(3) 浅部マグマ溜りへ上昇したマグマの発泡により浅部マグマ溜りの増圧が起こる.山体変動とCO2地中濃度の関連:浅部マグマ溜りからのガス流出が山体収縮-膨張サイクルをトリガーするという仮説を実証するためには,山体変動と山頂火口周辺でのCO2ガス放出量変化との関連を調べることが重要である.2005年以来,山頂火口近傍で地中CO2ガス濃度の連続観測を継続し,山体膨張の加速に引き続いて地中CO2濃度が上昇するのみならず,収縮時期にもCO2濃度が増加することが分かった.このことは,山体収縮がマグマからのガス放出によることを示唆する. 伊豆大島火山の噴火中期予測の指標:このモデルが正しければ,1999年以降に観測されている収縮?膨張変動の振幅増大は,浅部マグマ溜り上部の気泡に富んだ領域の体積増加を示唆し,噴火準備過程の進行を示す指標と考えられる.例えば,最近の収縮--膨張変動振幅の増加傾向をそのまま外挿すると,1986年噴火前の最大振幅約5μstrainに達するのは約10年後となる.