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[SVC50-12] マグマに満たされたダイクの流れ誘起振動が引き起こす火山微動
火山微動 (トレマー) は,噴火に伴って, もしくはそれに先立って観測される, 長周期で継続時間の長い地震動である。火山微動の多くは立ち上がりが不明瞭で, とくに噴火にともなって観測される微動では, 振動の振幅が指数関数的に増大することが多い (Konstantinou and Schlindwein 2002; McNutt and Nishimura 2008)。この性質は,火山微動が自励振動 (定常な外力が系の固有振動を励起し, 振幅が指数的に増大し, 最終的には非線形効果によりリミットサイクルになるようなもの) によるものではないか, という考えを示唆する。火山下において, 地下の定常なマグマの流れが岩盤の自励振動(流れ誘起振動)を引き起こすということは容易に想像できることであり, Julian (1994) が提示したモデルがまさにそれである。ところで流れ誘起振動が原因とされるタコマ海峡橋の崩壊の場合, 振動する橋桁は, 無限に広がる一様流に平行に置かれた弾性板としてモデル化できる。ここで考えるのは, ちょうどタコマ橋のケースの反対であり, 無限に広がる弾性体の中の薄い流体層の流れである。この場合も, 流れがじゅうぶん速ければ不安定が起き, 火山微動のモデルになりうるものと考えられる。われわれは, 2つの半無限弾性媒質に挟まれた無限に広がる平板層内の流れを考える。これはダイク中のマグマの流れを模擬していて, Julian のモデルを連続体力学をつかって単純化したものに相当する (くわしくは Sakuraba and Yamauchi 2014)。この自励振動モデルで励起される固有振動は表面波である。そこでわれわれは線形化されたナビエ・ストークス方程式を, 表面波がある位相速度で弾性媒質中を進行しているという境界条件のもとで, シューティング法をもちいて解き, その複素位相速度を得ることに成功した。そして位相速度の虚部が正になるという不安定条件が, 比較的遅いマグマ流速で実現することがわかった。注目すべきことは, もっとも不安定な振動モードが, これまでの同様の研究 (Balmforth, Craster and Rust 2005; Dunham and Ogden 2012) で議論されてこなかった, ダイクの反対称変形(屈曲変形)をともなうということである。このとき不安定化するのは, 2つの相対するレイリー波で, それらはマグマの流れに逆行する。レイリー波の粒子運動がほぼ円形に近いため, シアーをともなうマグマの流れの粘性摩擦によって粒子運動がつねに加速されるつづけることが, 不安定の原因である。中立安定を与える臨界流速は波長に反比例するので, 不安定が起こるとすれば, その波長は系でとりうる最大の長さスケールを越えることはない。ダイクの長さはせいぜい数kmであるので, そのとき励起されるレイリー波の周期は1秒程度である。一方, マグマの流速はせいぜい数m/s以下であろうから, 臨界波長には下限があり, それは0.1秒程度の周期に相当する。これらにより, われわれのモデルでは, もし不安定が起こるとすれば発生する振動の周期が必ず0.1-1秒程度になることになり, これは実際に観測される火山微動の特徴的周期に一致する。また火山微動の線形成長段階の時定数も, われわれのモデルをもちいてよく説明することができる。