日本地球惑星科学連合2014年大会

講演情報

口頭発表

セッション記号 S (固体地球科学) » S-VC 火山学

[S-VC50_2PM1] 火山噴火のダイナミクスと素過程

2014年5月2日(金) 14:15 〜 15:50 315 (3F)

コンビーナ:*鈴木 雄治郎(東京大学地震研究所)、奥村 聡(東北大学大学院理学研究科地学専攻地球惑星物質科学講座)、小園 誠史(東北大学大学院理学研究科地球物理学専攻)、座長:小園 誠史(東北大学大学院理学研究科地球物理学専攻)、入山 宙(九州大学大学院理学府地球惑星科学専攻)

14:15 〜 14:30

[SVC50-14] 斜長石を含むマグマのレオロジー遷移:サヌカイト溶岩の高温一軸変形実験

*石橋 秀巳1 (1.静岡大学大学院理学研究科地球科学専攻)

キーワード:レオロジー遷移, 粘性率, マグマ, 斜長石, 非ニュートン流体, サヌカイト

結晶を含むマグマのレオロジー的ふるまいは、結晶量の増加に伴って液体的から固体的へと変化するが、この変化は比較的狭い結晶量範囲で急激におこることが知られており、レオロジー遷移とよばれる。レオロジー遷移のおこる結晶量範囲では、わずかな結晶量の増加によっても粘性率が大幅に上昇するため、その特性を理解することは火山噴火のダイナミクスを考察する上で重要であるといえよう。レオロジー遷移のおこる結晶量範囲は、浮遊結晶の形状や配列に強く依存すると考えられる。近年、Picard et al. (2013)は、斜長石を含む高結晶量合成マグマについて変形実験を行い、結晶量Φが0.2~0.3の近傍においてレオロジー遷移がおこると報告した。しかし、彼らの実験試料では斜長石結晶の方位がランダムであり、比較的方位のそろっている天然のマグマに適用できるとは必ずしもいえない。斜長石の配列は、マグマのレオロジー遷移にどれ程の影響を及ぼすのだろうか?これを明らかにするため、本研究では気泡・斑晶を含まず、主にガラスと板状斜長石から構成されるサヌカイト溶岩について高温一軸変形実験および実験試料の微細組織解析を行った。実験手法:本研究では、香川県五色台産のサヌカイト溶岩を用いた。この溶岩は、およそ60vol.%の流紋岩質ガラス、36vol.%の板状斜長石と4vol.%の輝石からなり、斜長石は平行に配列している。この溶岩を10×10×20 mmの直方体に整形し、965、915、865℃の温度、3.16~0.003mm/minの変形速度で一軸圧縮実験を行った。実験には、東京大学地震研究所の高温一軸圧縮試験機を用いた。粘性率は、測定した変形速度と応力の関係から、Gent(1960)の式を用いて算出した。変形実験は以下の2つの方法で行った。まず、一定温度の下でステップ状に変形速度を変化させ、粘性率と歪速度の関係を検討した。次に、915℃の温度、0.1mm/minの変形速度の条件で総歪み量を0.11から0.46まで変化させ、粘性率の歪依存性を検討した。変形実験終了後、実験試料を迅速に冷却・回収し、薄片を作成して光学顕微鏡およびSEMによる組織観察とEPMAによるガラス・鉱物の化学分析を行った。 結果:サヌカイト溶岩は、いずれの実験温度においても、歪速度の増加に対して粘性率が減少するshear thinningがみられた。歪速度10-4 s-1における粘性率は、965、915、865℃でそれぞれ108.7、109.3、109.4 Pa sであり、粘性率は歪速度の‐0.36乗に比例する。この値は、先行研究におけるべき指数‐結晶量関係の外挿に一致する。メルトの粘性率に対するマグマの粘性率で定義される相対粘度の値は3つの温度で非常によく一致し、歪速度10-4 s-1において約102.4であった。このことは、約40vol.%の高結晶量溶岩においても、相対粘度のコンセプトが有効に機能していることを示している。歪みの増加に伴い、正則方向に斜長石の方位のそろったマクロなドメインの発達が確認された。しかし、このドメイン構造の発達にともなう粘性率の変化は0.3桁程度と、相対粘度に比べて十分小さかった。このことは、斜長石結晶配列のマクロな構造の発達は、マグマの粘性率に大きな影響を与えないことを示唆している。相対粘度と結晶量の関係を検討したところ、先行研究(例えばIshibashi, 2009; Mader et al., 2013)でみられた関係の外挿とよく一致した。Marron-Pierce式に最小自乗回帰したところ、結晶の最大充填密度Φmの値として0.43を得た。この値は、Mader et al.(2013)のモデルとよく一致する。 今回の実験結果を先行研究の結果と合わせると、板状斜長石がよく配列している場合、マグマのレオロジー遷移はΦ~0.43近傍でおこると考えられる。この値は、Picard et al.(2013)によって提唱された値より有意に大きく、また等方的形状の結晶を含むマグマのそれ(Φ~0.6)よりも小さい。この結果は、斜長石の配列がレオロジー遷移に強い影響を及ぼすこと、そして斜長石結晶がよく配列している天然のマグマでは、レオロジー遷移はΦ~0.43近傍でおこることを示唆している。